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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百八十一 結人編 「目的の為なら」

五月十三日。日曜日。朝からちょっと天気が怪しいなと思ってたら、昼頃からすごい雨になってきた。やっぱり『走り梅雨』ってやつなのかな。やけに雨が多い気がする。


それでも、雨だけだったから千早ちはやちゃんたちはいつも通りにやってきた。


今日も結人ゆうとくんは呼ばない。夕食は来てもらうけどね。昨日も来てもらったし。


だけど彼自身は、一昨日の<事件>については一切、触れようとする気配もなかった。だから僕たちも敢えて何も言わなかった。責めることはもちろん、褒めることもしない。


彼の行為は、結果としては凶悪な犯罪者を捕まえることにはなったかもしれなくても、彼がそれをやってる『目的』がたぶん、ただの『憂さ晴らし』であって正義感とかじゃないってことが分かってるし、何より今回はたまたま無事だっただけで、もし相手がナイフとかの凶器を持ってたらそれこそ取り返しのつかないことになってた危険性もあるようなものだから、本当はやらない方がいいんだ。


それは、彼の役目じゃない。もし、今回の被害者が沙奈子だったとして、彼が助けてくれなかったとしても僕はそれを恨んだりはしない。と言うか、恨まないように努力する。恨んでしまいそうになる自分を否定する。


でもそれと同時に、おかげで守られた子がいたのも事実だから、責めるのも違うと思う。だから敢えて何も触れない。


結人くん自身も自分のやったことを自慢するような素振りさえ見せなかった。もしかしたら彼自身、自分の行為が自慢できるようなものじゃないっていうのを、どこまで自覚してるかはともかく何となくでは分かってるのかもしれないな。


波多野さんはもう分かってる。自分の行為が危険なだけだってことは。それでも咄嗟に動いてしまうんだ。理屈じゃなく体が勝手に。彼女が抱えてるものがそれだけ大きいっていうことなんだと思う。


分かっていても止められないのと、分かってるのに止めないのとは違うと思うんだ。


玲那の事件でもそうだったように、『目的の為なら何をやってもいい』というのは駄目なんだよ。それが正しい目的であっても。手段が間違ってたらそれは罪になるんだ。結人くんにはそれを分かってもらわなきゃいけない。


たぶん、世の中の犯罪でも決して少なくない割合で加害者自身は『自分は正しいことをやってる』と思ってたっていうのがある気がする。『正しいことの為』っていうのは、人間を惑わせる麻薬のようなものだと思う。テロリストでさえ、自分は正しいことをしてると思ってるのが多いだろうからね。



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