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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百七十九 結人編 「些細とは言えない事件」

五月十一日。金曜日。昨夜も寒かった。それを思うと今朝は少しマシなのかもしれない。


だけどそれはさておいて、今日は、僕たちにとってはそれなりに、いや、世間的に見ても決して些細とは言えない『事件』があった。


「カナったらまた、痴漢、じゃないな、今度はレイプ未遂犯ってことなのかも。をボッコボコにしちゃったんだよ」


「マジか!?」


仕事が終わって沙奈子を迎えに行った時、田上たのうえさんがそう説明したのを聞いて、ビデオ通話の画面も向こうで玲那がびっくりした顔をしてた。当然その隣では絵里奈も。


「いや~、面目ない。でも、やっぱ現場に出くわしちゃうと抑えられなくって…」


波多野さんが本当に申し訳なさそうに何度も頭を下げて謝ってる。


「今回の件は、本当に危ないところだったようです。沙奈子さんが通ってる学校の五年生の女の子が自宅に戻ったところ、玄関を開けたその隙を狙って容疑者は押し入ったとのことですので、カナの対応がなければ危ないところでした。


もちろん、カナの行為は非常に危険なものであり、決して推奨できることではありません。しかし、容疑者の怪我もある意味では『自業自得』の範疇に収まるものだったようですし、さっそく弁護士を派遣して警察から事情も聞きましたが、現時点ではカナが暴行等の罪で訴追される可能性は低いでしょう。その点では幸いだったと言ってもいいかもしれません」


と、星谷ひかりたにさんが詳しく補足してくれる。それにしても、すぐさま弁護士を派遣するとか、さすがだな。


でもその時、波多野さんが意外なことを言いだした。


「だけどさ、その時、犯人を止めようとしたのは私だけじゃなかったんだよね。もう一人、五年生くらいの男の子も事件に気付いて踏み込もうとしてたみたいなんだよ。で、その彼が逃げようとした犯人を転ばせて逃亡を阻止してくれたんだ」


って。すると田上さんが困った顔しながら、


「カナみたいのが他にもいるってことだよね。ホント、危ないことしなきゃいいんだけど……」


その話を聞いた時、僕の頭によぎるものがあった。


『五年生くらいの男の子で、逃げようとしてる容疑者に怯まずにそれを転ばせるって、まさか……』


僕の頭の中に浮かんだ姿。それは、結人ゆうとくん。


決して体は大きくなくて、五年生くらいにも見えて、でも大人相手に挑みかかる男の子。


「ねえねえ、カナ。その男の子って、もしかしてこの子?」


そう言って玲那が画面に表示させたのは、鷲崎わしざきさんと一緒に写った、不貞腐れた顔の結人くんの姿だった。


「あ!、そうそうこの子!。間違いない、この野性味あふれる目つき。玲那さんの知ってる子だったんだ?」


やっぱり結人くんか。


話を聞いてて玲那もピンと来たんだな。



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