六百七十八 結人編 「家庭裁判所」
五月九日。水曜日。昨日の日中はやんでた雨が、また夜から降り出して、朝まで降り続いてた。だけど僕が出社する時間にはやんでたから助かったな。
ただ、何だか肌寒い。昨日よりも明らかに肌寒い。
もし、鷲崎さんと喜緑さんが仲良くなったりしても、どちらも大人だったら八歳差(たぶんそれくらいのはず)くらいはどうってこともない気がする。それで思えば、六歳年下の大希くんに想いを寄せてる星谷さんだって、彼が大人になってからなら大した問題じゃないだろうな。今はまだ、高校生と小学生だから奇異にも見えるだけで。
そういう意味でも、星谷さんと大希くんの件は、陰ながら応援したいなとは思ってる。沙奈子の様子を見る限りだと、やっぱり大希くんとの関係は進展しそうにないから。
だからと言って結人くんと沙奈子がっていうのも、正直、ピンとこないんだけどさ。結人くんも本質的にはいい子だと思っても、どうしても雰囲気が沙奈子のそれとは噛み合ってない気が……。
いや、それは分からないのか。お互いに人間関係については決して器用じゃなくて、他人に誤解されやすいって意味では『似た者同士』と言えなくもないのかもしれない。
五月十日。木曜日。肌寒いと感じた昨日よりもはっきりと寒いと感じた。まったく、もう五月も半ばに差しかかろうっていうのに、なんだろう、この寒さは。それでも日は出てるから、昼には暖かくなりそうだけど。
「今日、家庭裁判所に行ってきます。結人のことで」
朝、ビデオ通話で参加してきた鷲崎さんがそう告げた。少し強張ってはいるけど、覚悟を決めた顔だと思った。
「そうか。でも、何があっても僕たちは鷲崎さんと結人くんの味方だよ」
そう言った僕に、玲那と絵里奈も続く。
「そうだよ。私だって裁判所に立ったんだ。話を聞かれるくらいは余裕だよ」
「玲那とはもちろん事情が違いますけど、きっと結果的にはいい方向に向かうと思います。だから道中、お気をつけて」
僕たちの言葉に、彼女の目が潤むのが分かった。
「ありがとうございます…。本当にありがとうございます……」
結人くんも一緒に家庭裁判所に行って、話を聞かれるってことだった。彼がそこで何を話すのか、それとも何も話さないのか、僕には分からない。ただ、向こうも専門家なわけだから、きっとちゃんとしてくれるだろう。万が一結果が悪かったとしても、それも一時的なことだと思う。
と、僕達が思ってた通り、夜には、
「いや~、いろいろきついこと言われるのかと思ってたらなんかカウンセラーに話を聞かれてるみたいな感じで、逆に拍子抜けしちゃいました。ケンカは良くないことだったけど、今後気を付けるということだったらこのまま終わりみたいですね」
って、ホッとしたように鷲崎さんが話してくれたのだった。




