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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百七十 結人編 「自分を取り巻く状況」

五月一日。火曜日。ゴールデンウイーク中の二日間だけの平日一日目。


沙奈子はまったく気にすることもなく当たり前のように学校に行く用意をする。学校が好きなんだというのを感じる。少なくともイヤイヤ行ってるわけじゃない。


ただ、結人ゆうとくんにとって『学校』は、苦痛を感じる場所だというのはまだ変わらないらしい。学校にいる間、ひどく不機嫌そうだったと、千早ちはやちゃんや大希ひろきくんが言ってたと星谷ひかりたにさんが教えてくれた。


その気持ちは僕にも分かる気がする。正直、学校にはいい思い出なんて何もなかった。ただただ苦痛なだけの時間だったと思う。どうしてそんなことになるんだろうって今は感じるよ。


沙奈子が学校を好きな理由も分かる気がする。あの子にとってはすごくいい学校だからだ。いい友達がいて、学校そのものがちゃんと子供たちを見守ってくれてて、そういう実感があるから安心できるんだ。


でももちろんそれは、それぞれの感じ方にもよると思うし、そういう風に感じ取れない子もいるんだろうな。その一人が結人くんなんだ。


彼にとって学校は今でも『敵』なんだと思う。大人や学校に対して徹底した不信感しか植え付けられてこなかったから、いろんなことが悪い方にしか受け取れなくなってるっていうのもあるんじゃないかな。僕もそうだった。


学校に対する不信感は、千早ちゃんのことで今の学校がすごく丁寧に対処してくれるまで拭われることはなかったくらいだからね。そう、小学校の低学年頃からすでに抱き始めていた不信感が拭われるまで、二十年以上かかったんだ。


それを思えば、転校してきてまだ一ヶ月も経ってない彼がそれを改められないのなんてむしろ当然じゃないかな。


現実はアニメやドラマじゃないんだ。優しい先生がいて、優しく接してくれて、心に傷を負った子供がみるみる明るく穏やかになっていくなんてことがそうそう起こるわけないじゃないか。ましてや彼の場合は、実の母親に殺されかけるという過去を背負ってるんだ。そういう子が簡単に心を開いてくれるとか、期待する方がどうかしてる気がする。


だから僕は待つんだ。彼が、自分を取り巻く状況が大きく変わったことに自ら気付くまで。そして、何がどう変わったのかっていうのを彼自身が疑問に思って、その理由を知りたいと感じた時に、答えを提示してあげることが大人の役目だと思うんだ。


簡単なことじゃないのは分かってる。こんなに優しくて広い心を持ってる沙奈子ですら何ヶ月もかかったんだ。この子以上に大人を恨んであるであろう結人くんがそうなれるのには、もっと時間が必要なんだってね。



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