六百六十九 結人編 「アーリィサウザンド」
四月三十日。月曜日。世間ではゴールデンウィークということらしいけど、正直、僕にとってはどうでもいいことだった。絵里奈は関係なく仕事があるから、特別どこかに出掛けるつもりもないし。絵里奈も一緒じゃなければ、沙奈子も出掛けたいとは思わないみたいだ。まあ、元々、出掛けるのとか好きな子じゃないからね。
ただ、玲那は、秋嶋さんたちが、絵里奈のマンションの近くのカラオケボックスまで行って午後から『オフ会』をするらしい。そうやって玲那が部屋に閉じこもりっぱなしにならないように気を遣ってくれてるのが分かって嬉しかった。
でも、木咲さんも参加するらしいから、旅館の方はいつもとは違う人が担当になってるってことなんだろうな。
だけどそれはまあさて置いて、昨日の結人くんだけど、結局、千早ちゃんの作ったオムライスも、もりもりときれいさっぱり食べてしまった。美味しかったんだろうな。
もちろん、『美味しかった』とも『美味かった』とも言ってくれなかったものの、千早ちゃんも彼の食べっぷりを見ただけで十分に分かってしまったみたいだ。しかも、あとで星谷さんから聞いた話によると、この時の結人くんの態度は、完全に彼女のお姉さんたちのそれと同じだったんだって。何も言わずに食べ切って、でも憮然とした表情は崩さなくて。
そういう実例が身近にいるから、千早ちゃんにも結人くんの性格みたいなのが何となく掴めてるし、『素直じゃないんだから~』って感じで余裕をもって見てられるそうなんだ。
なんか、すごいな。
で、今日は、スパゲティカルボナーラだ。
今では千早ちゃんの得意料理の一つでもある。
「こんにちは~!、今日もヘコまされにきました~!」
と、結人くんを連れた鷲崎さんがほとんど開き直りみたいに言いながら入ってきた。相変わらず大きな胸が腕を振り上げた途端にゆさっと重そうに揺れる。
「はっはっは~!、性懲りもなくやってきたか織姫~!。お前のライフはもうゼロだ~!」
「ああっ!、お慈悲を、お慈悲をぉ~!」
とかなんとか、ビデオ通話画面の向こうの玲那とコントを繰り広げてる。さらにそこに千早ちゃんが加わって、
「い~や!、容赦はせんぞ、このおっぱい魔神めが~!!。我がカルボナーラの前に屈するがよいわ~!!」
って、山盛りのカルボナーラを乗せたお皿を突き出した。
すると大希くんがそんな千早ちゃんに向かって、
「い~からとっとと座れ!、アーリィサウザンド!」
なんてツッコミを。
たぶん、千早ちゃん=アーリィサウザンドってことなんだろうな。
「……」
そんな様子に明らかに引いてた結人くんだったけど、やっぱり山盛りのカルボナーラを黙って食べ尽くしたのだった。




