六百六十八 結人編 「それは私も同じか~」
「織姫さんと鯨井のは私に任せて」
三人とも一つ目のが出来上がった時、千早ちゃんがそう声を上げた。見るとすごく上手くできてた。だから俄然やる気が出てきたってことかもしれない。
だけど、そうして作った二つ目の時には、
「ああっ!」
って焦った感じで彼女が声を上げたとおり、玉子が大きく破れてしまってってた。
「ちくしょ~!、まだだ、まだ終わらんよ!」
そんなことを口にしながら三個目に挑戦。すると今度はまた綺麗にできた。
「うおっしゃ~!、さすが私!。喰らえ鯨井!」
ガッツポーズを決めながら嬉しそうにそういう千早ちゃんの姿に、何だか頬が緩んでしまう。
沙奈子だけじゃなくて千早ちゃんの手作り料理まで食べることになるなんて、結人くん、驚きだろうな。
なんてことを思ってるうちに、彼を連れて鷲崎さんがやってきた。
『げっ!』って感じで、結人くんがまたあからさまに嫌そうな顔をする。千早ちゃんたちまでいたからだっていうのはすぐに分かった。だけど彼は逃げようとはしなかった。そういうふうに逃げるのは、きっと彼にとっては屈辱なんだろうって気がする。せめてもの反抗なのか、不機嫌そうにみんなを睨むものの、千早ちゃんも大希くんも星谷さんもまったくそれを気にする様子もない。完全に彼の独り相撲だった。
「わ~、美味しい、これも沙奈子ちゃんが作ったんですか?」
鷲崎さんがそう声を上げたから、僕は、
「いや、今日はこの千早ちゃんが作ってくれたんだよ」
と、頬が緩むのを感じながら言った。すると千早ちゃんが自慢そうに「えっへん!」と胸を張る。もっとも、そんな彼女の前に置かれたオムライスは、玉子が大きく破れてたけど。上手くいったのを、鷲崎さんと結人くんにあげたんだ。
「え!?、千早ちゃんもこんなに上手に作るの!?、うわ、ショック!!。負けた~!」
とかなんとか、動揺を隠せない鷲崎さんの姿に、玲那が、
「うしし、ピンチだよ織姫~」
ってニヤニヤ笑ってた。
そこに千早ちゃんが、さらに追い打ちをかける。
「私だけじゃなくて、ヒロも作れるよ。ヒロのとピカお姉ちゃんのはヒロが作ったものだから」
「うそ~!?」
鷲崎さんは身をよじって目をまん丸にした。すると、
「結人、あんた負けっぱなしだよ?。この三人の足元にも及ばないよ!?。どうすんの!?」
と結人くんに向かって言った後すぐに、
「ああ~!、それは私も同じか~!!」
って頭を抱え、まるで百面相のように表情が変わってた。
だけど、この場に、そんな彼女を嘲笑う者はいない。ニヤニヤ笑ってるように見える玲那だって、鷲崎さんをバカにしてるわけじゃない。ただみんな、あたたかく見守ってるだけなんだ。




