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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百六十五 結人編 「責任から逃げたくない」

四月二十七日。金曜日。ここ数日、妙に肌寒かったのが少し緩んできた気がしたのに、夕方、なんだか急に曇ってきて、会社から帰る頃にはけっこう強い雨が降りだしてた。ただそれもあまり長い間ではなかったかな。夕立というのとも違う感じだけど、一時的な雨だったのかもしれない。


山仁やまひとさんのところから沙奈子と一緒に帰る時にはほとんど小降りになってたし。でも、朝はそんな感じがなかったから傘を持っていってなくて、折り畳みの傘を持っていってた僕と相合傘で帰ることになった。


なるべく沙奈子が濡れないようにと思って傘を傾ける。その分、僕の肩は濡れてしまうけど、むしろそれが何だか嬉しい。この子のことをそういう風にしてあげたいと自分が思えるのが嬉しいんだ。僕がこの子のことをちゃんと大事にしたいと思えてるっていう実感が。


結人ゆうとくんは、鷲崎わしざきさんと出逢うまでは、周りの大人からそんな風に思えてもらえなかったんだろうな。そしてそれは沙奈子も同じだ。僕のところに来るまでは、いや、僕のところに来てからも最初のうちは、自分が雨に濡れてもこの子だけはって思えてなかったのが今はすごく分かる。あくまで途中からなんだ。そんな風に思えるようになっていったのは。


大人からそんな風に扱われた子供が他人を本当に大切にできるようになるなんて、ほとんど奇跡のようなものじゃないかな。大人からされたことから学んで、他人に対してもそれに基づいたことしかできないっていうことの方がホントは当然なんだと思う。


人間はドラマやアニメの登場人物じゃない。誰からも教わってもないことが突然できたりすることはない。他人に嫌われるようなことをする人は、結局、本人が大人からそういう扱いを受けてきたからなんだとしか思えない。大人からそういうのを教わったんだとね。


僕は自分が上手くできなかったことで子供が同じように上手くできないようになってしまったのを、子供のせいにはしたくない。大人がおかしなことをしてても子供が立派になるなんてムシのいい展開は信じない。


だから結人くんが上手くできないのなら、それは周りの大人がそうだったからなんだ。その責任から逃げたくない。


僕にどれだけのことができるかは分からない。だけどこれまで彼の周りにいた大人たちのフォローくらいはできる大人でありたい。今までは鷲崎さん一人がそれを担ってきたんだと思う。だからこれからは、僕も協力したいんだ。鷲崎さん一人に負担を負わせたくない。



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