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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百六十三 結人編 「交通当番」

四月二十三日。月曜日。今日はまた朝から雨だった。時折降ったりやんだり程度だったものが昼過ぎくらいからはずっと降り続けだ。


「いや~、でも朝はまだ雨がきつくなかったから良かったです」


仕事を終えて山仁やまひとさんのところに寄り、沙奈子と一緒に部屋に帰ってきて夕食を終えた後、鷲崎わしざきさんも一緒のビデオ通話で彼女はそう言ってきた。


と言うのも、今朝、彼女は『交通当番』として街頭に立ったからだ。特に危険とされてる場所に旗を持って立って、子供たちを誘導して安全を見守るのがその役目だった。


申し訳ないけれど僕は辞退させてもらっている、PTAとしての役目だ。それを鷲崎さんは、仕事がフレキシブルで融通が利くということから受け入れた。それで早速、担当日に当たったんだ。二ヶ月に一度くらいの割合で順番が回ってくる。


多くの人は面倒がるかもしれないそれを、鷲崎さんは嬉しそうに話してた。


「子供たちが可愛くて可愛くて…!。沙奈子ちゃんの班が通った時にも挨拶させてもらいましたけど、沙奈子ちゃんは会釈してくれたのに、結人ゆうとってばそっぽ向いたままだったんですよ。ホントに困ったやつです」


『困ったやつです』とか言いながらも、鷲崎さんの表情は明るくて、穏やかだった。僕も、彼の態度は決して褒められたものじゃないとは思いつつ、沙奈子が会釈しかしなかった点とかについては、正直、これも褒められたことじゃないからあんまり彼のことは言えないと思ってるんだ。だって本来なら、元気よく大きな声で「おはようございます」挨拶するように学校からは指導されてるはずなんだ。なのに沙奈子はそうすることができてない。


沙奈子や結人くんがそうできない理由を僕たちはよく知ってる。だから煩くは言わない。なるべくそうするようには折に触れ言うけれど目くじらを立てることはしない。できるようになれば自然とそうしてくれるのは分かってるから。


玲那の事件が起こる前には、沙奈子はそうしてくれてた。だから本来ならできるんだ。それができない状態に、今のあの子はあるんだ。何より、子供の頃の僕、いや、今でもはっきり言ってそうだけど、僕はまともに挨拶とかできるタイプじゃない。自分ができないのに、沙奈子や結人くんにそうするように強要はできないよ。愛想良く挨拶ができないことで被る不具合については、覚悟しなきゃいけないとは思うけどね。


人間はそれぞれ、いろんな事情を抱えてる。そういう事実を無視して誰も彼も一様に同じようにするのが理想的だなんて、そんなのは現実を見てない人間の妄想だとしか僕は思わないんだ。




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