六百六十二 結人編 「ファンクラブ」
四月二十二日。日曜日。今日も天気がいい。暑いくらいに暖かいし。
昼前、千早ちゃんたちがいつも通りにやってきて、ホットケーキを作ることに。そこで僕は、結人くんにもそろそろ頃合いかなと思って言った。
「ごめん、沙奈子、結人くんと鷲崎さんの分も作ってくれるかな」
すると沙奈子が頷いただけじゃなく、千早ちゃんが僕に向かって、
「私も作るよ!」
と言ってくれた。だから今日は、七人分のホットケーキを作ることになる。一人二枚として十四枚。ホットケーキミックス一袋でだいたい三枚焼けるから、五袋必要だ。だから星谷さんが持ってきてくれた分に加え、うちにストックしてた分も使って十五枚焼くことになった。なのに、沙奈子はもちろん、千早ちゃんも大希くんも文句ひとつ言わずに作ってくれた。
そんな千早ちゃんが、ホットケーキを作りながら言う。
「鯨井のさ、ファンクラブってのが正式にできたみたいなんだよね。六年の女子が作ったんだって。びっくりだよ。あんなののどこがいいんだろ」
なんてぶっきらぼうに言う千早ちゃんだけど、それは決して結人くんのことを馬鹿にしてる訳じゃないのは僕には分かった。ただ彼女の好みじゃないってだけなんだと思う。だから結人くんのことを『カッコいい』と言う女の子の気持ちが分からないってことを言いたいだけなんだろうな。
「それは千早の好みの問題だろ。鯨井みたいなのが好きな女の子は好きなんだよ」
と、大希くんが言った。
大人しい感じだと思ってたけど、最近では割と僕の前でもフランクに話してくれるようになった。うちでは何だかんだと遠慮してくれてたらしい。それが何だか嬉しかった。
と、そうこうしてる間にもどんどんホットケーキは焼けて、最後の二枚が焼き上がる直前に、僕は鷲崎さんに電話した。
「え?、ホットケーキですか!?。行く!、行きます!」
鷲崎さんがテンション高く応えて、結人くんを連れてきた。
「あ…!、こんにちは!」
これまでは僕と沙奈子と、ビデオ通話画面の中の絵里奈や玲那だけだったのが、今日は千早ちゃんと大希くんと星谷さんまでいて、少し驚いたようだ。しかも結人くんは明らかに、『げ…!?』って感じの表情をした。僕の部屋に来るだけなら多少慣れてきたかもだけど、まさか同じ学校の他の子まで来てるとは思わなかったんだろうな。
だけど、部屋に入って来てしまった以上は逃げ出すこともなく、憮然とした感じながら彼もしっかりホットケーキを食べてくれた。彼が食べたのは、沙奈子が作ったホットケーキだ。
『美味しい』とも『美味い』とも言ってくれないけど、ただ黙ってすぐに食べ切ってくれたから、やっぱり美味しかったんだと思うんだ。




