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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百六十一 結人編 「実はそれぞれ微妙に」

四月二十一日。土曜日。


今日も沙奈子と一緒に絵里奈と玲那に会う。暑いくらいの陽気だったから、あまり歩いたりするのはきついかもと思って人形のギャラリーに行くことになった。


鷲崎わしざきさんもせっかくだからと誘ってみたんだけど、


「そんな、ご家族の時間なんですからお邪魔できませんよ!」


と、僕たち家族の水入らずの時間ということで遠慮するって。なんか逆に申し訳ない気がしてしまった。


だけどお言葉に甘えさせてもらって沙奈子と二人で出掛けた。


ギャラリー内は人形をいい状態で保存する為に常にエアコンが効いてる。決して寒くはないけど暑くもない。まさに適温って感じだ。


「織姫もすっかり落ち着いたみたいだね」


「うん、前の学校の件も、弁護士の方でちゃんとしてくれるって。相手の子も、家庭裁判所で審議の上で今回は『保護的措置』というものになるらしいね」


「ピカが言ってたやつだね。要するに調査官とかがその子につき添ったりして態度を改めさせるってやつ。私もさ、ちょっと調べてみたんだ」


「そっか。結局、親戚の人に引き取られるらしいけど、それまで保護者だった人って完全な赤の他人だったって言ってたな」


「ま~、赤の他人って言ったら織姫と結人くんもそうだもんな~。だけど、その子の場合はハズレだったってことだね」


「言い方は悪いけど、結局はそういうことなのかな」


「だと思うよ~。だってやり口が悪質クレーマーのそれだもん。そういう人のところにいたから影響されちゃったっていうのもあるかも」


「怖いな…、沙奈子がそうならないように僕も気を付けなきゃってすごく思う」


「お父さんは大丈夫だよ。沙奈子ちゃん見てても分かるし、それにお父さんが変な人だったら、私、娘になんかなってないよ」


「…ありがとう……」


「ううん。お礼を言うのは私の方だよ。お父さん」


玲那とそういうやり取りをして、僕は自分が落ち着くのを感じてた。こうやって話し合える人がいるっていうのも大事なんだな。自分の考えだけじゃなく、他人の考えも耳にして、自分の考えとすり合わせてより筋道の通ったものにしていくのが必要なんだ。


自分一人で考えたものだと、どうしても自分に都合のいいものだけに偏ってしまいがちだ。人間は無意識に自分が考えたくないこと、耳にしたくないことは意識の外に追い出してしまう傾向があるって聞いたことがある。それじゃ駄目なんだろうな。


僕が幸運だったのは、そういう形で一緒に考えてくれる人に出逢えたことが一番だって改めて感じるよ。


絵里奈も玲那もそうだし、星谷さんや山仁さんがまさにそうだ。


僕たちは似たような価値観を持っているようでいて、実はそれぞれ微妙に違ってる。その『違い』が重要なんじゃないかな。



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