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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百六十 織姫編 「保護者懇談会」

昼過ぎ。いよいよ授業参観の時間が近付いてきて、僕と鷲崎さんは一緒に学校に向かうことになった。


「ししし、父さんとのデート、楽しんどいで~、織姫~♡」


とか、玲那は悪戯っぽく笑ってた。でも鷲崎さんは真っ赤な顔をして、


「えへへ♡」


って感じで笑ってる。う~ん…。


もしこの様子を絵里奈に見られたところで彼女が機嫌を悪くするとも思えないからいいけどね。


普通ならあんまりしないことなのかなとも思う。こういうの、僕はほとんど経験ないからよく分からないけど。


でもまあとにかく、二人で学校へと向かった。


「なんか、こう、ワクワクしますね。前の学校だと正直、不安の方が大きかったですけど」


「そうなんだ?。僕は今の学校が初めてで他は知らないから、その辺りはよく分からないかな」


「二回目の転校ですけど、やっぱり学校によっても違いますよ。それはすごく感じます」


「まあ、僕も自分が小学生だった時のことを思い出すと、それは思うけどね。ただそういうのは時代にもよるのかと思ってた」


「確かに昔と今じゃ基本体な対応も違ってるかもしれませんけど、逆に昔と変わってない学校もある感じですね」


「ああ、そうかもしれない」


なんてことを話しながら学校に向かう。


到着すると、さすがにいつもは締まってる校門も、『見守り隊』のジャケットを着た人が立ってて解放されてた。入る直前、保護者用の名札を首から下げる。


「こんにちは、ご苦労様です」


と声を掛けられて、


「こんにちは」


と鷲崎さんと一緒に応えた。


他にも保護者用の名札を下げた人が次々と来てる。自転車で来ると置き場が混雑するので、家が近い人は自転車での来校は控えてほしいと言われてたこともあって、僕はいつも徒歩で来る。他の人も殆ど徒歩だった。それでも自転車で来てる人もいるみたいで、体育館の脇には自転車が並んでたりもした。みんながそうすると確かに置き場所にも困る感じだと分かる。概ねそれを守ってるんだろうな。


大人がそうやってお願いされたことを無視してたら、子供だってそういうのを無視していいと考えてしまうと思う。だから僕はそういう部分は守りたい。大人が手本を示さなきゃいけないんだ。


「こういうところからして違う感じですね。保護者の意識から違うって言うか…。


学校を良くするとかっていうのは、学校側だけの努力じゃダメなんだって、先輩や沙奈子ちゃんを見てると感じます。保護者の側の努力も必要なんですね」


鷲崎さんの言葉に、僕も「そうだね」としみじみ応えさせてもらった。


千早ちはやちゃんとの一件があった時、僕は学校側の対応に感心してたけど、その際に僕が横柄に振る舞って学校側を罵ったりしてたら、あんな風に丁寧に対応してもらえたかどうか分からないって実感してる。だって、学校の先生だって人間だ。同じように自分の役目としてやらなきゃいけないことだとしても、罵られながらやるのと、それをしてもらえてることを保護者に労ってもらいながら協力してもらうのとじゃ、やっぱり後者の方が気持ち良くできる筈だし。


だから僕も、PTAの委員とかは引き受けられなくても、ちゃんと自分にできる範囲では協力したいと思ってるんだ。少なくとも学校の足を引っ張りたくはない。


そう気持ちを新たにしつつ、沙奈子と結人ゆうとくんのいる学級、六年一組を目指す。


すると授業はもう始まってて、みんなしっかりと席について担任の先生を見てた。


「すごい…、ちゃんとしてる…!」


鷲崎さんが小さな声で僕に言ってきた。前の学校では、授業中でも私語をしてる子が結構いたらしい。そういうのがなくて驚いたんだって。


「結人……」


沙奈子はもちろん、結人くんも前を向いて授業を聞いてるように見えた。少なくとも見た目にはね。


千早ちゃんと大希ひろきくんは残念ながら今年は二組ということで別々のクラスになってしまった。だけど仲の良さは相変わらずみたいだ。すごく助かってる。


子供たちはみんな真面目に授業を受けてた。その様子に、鷲崎さんの目が潤んでるようにさえ見えた。


そうこうしてる間に、山仁やまひとさんが教室の外を通るのが分かった。二組の教室に向かうためだ。ふと目が合って、僕は会釈をさせてもらった。鷲崎さんも一緒に会釈してくれて、山仁さんも返してくれた。今日はさすがに星谷ひかりたにさんは来ないらしい。学校があるからね。だから山仁さんが、大希くんはもちろん千早ちゃんの保護者としても参観に来たんだと思う。千早ちゃんの家庭はかなり変わったらしけど、それでもお母さんは学校には顔を出さないそうだ。だからPTAの委員とかについてもまったく参加しれないんだって。


もっとも、千早ちゃんのところは子供が三人の母子家庭でお母さんは看護師の仕事で本当に忙しいから、元々難しいというのは分かってることだ。それに僕だって家の事情ということで辞退させてもらってるんだから、千早ちゃんのお母さんを批判とかできない。


授業が終わって、沙奈子が僕のところに来てふわっと笑顔を向けてくれた。やっぱり他の人には分かりにくい表情だとは思うけど、僕にはちゃんと分る。


「頑張ってたね」


僕がそう言うと、沙奈子は嬉しそうにはにかんだ。


一方、結人くんはと言うと、鷲崎さんのことは無視してさっさと帰る用意をして教室を出て行ってしまった。


「沙奈~、帰ろ~!」


教室の外から千早ちゃんが声を掛けてきた。大希くんも一緒だ。沙奈子は黙って頷いて、それから僕の方を見た。


「じゃあ、気を付けて。あとで迎えに行くからね」


僕のその言葉を確認して頷いて、千早ちゃんと大希くんと一緒に帰って行った。


「それでは、懇談会を始めます。すいませんが、各自机を移動させてください」


担任の先生の指示に従って、僕たちも手近にあった机を移動させて、円状に並べた。できれば沙奈子の机にと思ったけど、他の子のお母さんがすでに移動させて座ったから、僕も他の子の席に座らせてもらった。鷲崎さんも結人くんの席じゃない、僕の隣に座った。


ほぼ全員の保護者が参加しての懇談会が始まる。


「改めて自己紹介させていただきます。担任の磯垣と申します」


割と若い感じの女性の先生だった。実は担任をするのは二年目で、しかも去年は一年生の担任だったんだって。それまでも低学年の副担任をしてて、初めての高学年の担当だそうだった。


だけど僕は、そんなに心配してなかった。この学校は、それぞれの学級に副担任もいるし、学年主任の先生も随時各教室を回ってくれてる。担任だけに丸投げして任せっきりにしないんだ。学校全体で組織立って対応してる。それを見てきたから、不安はない。


保護者全員で簡単な自己紹介をして、僕と鷲崎さんも、


「山下沙奈子の父です。よろしくお願いします」


鯨井結人くじらいゆうとの保護者です。よろしくお願いします」


と自己紹介させてもらった。


それからPTAの委員を選出する手続きに入った。基本的にはそれまで委員をしたことのない人が優先的に選出される。だけど僕は、候補としては呼ばれなかった。免除申請が通ったということだ。一方、鷲崎さんは候補に加えられていた。免除申請をしなかったからだ。


でも、委員の半数以上が自主的な立候補で決まって、残りはくじ引きになったけど、鷲崎さんはその選から漏れた。


「外れちゃいましたね」


と、ちょっと残念そうだった。


こうして滞りなくPTAの委員の選出も終わって、解散となった。


二組の方はまだ終わってないみたいだったから、先に帰らせてもらうことになった。山仁さんの家に沙奈子を迎えに行く。


「なんだか、ホッとしました」


帰りの道で、鷲崎さんが穏やかな表情でそう言った。


「正直、前の学校ではもっとギスギスした感じだったんです。PTAの委員も押し付け合う感じで。私は結人が三年生の時にやりましたけど、お母さん同士で意見が対立してほとんど喧嘩みたいな言い合いになったりしてなかなか決まらなかったから私が立候補したんです。


なのにこの学校では、びっくりするくらいすんなり決まりました。


結局、いい学校かどうかは、保護者側の心掛けもあるんですね……。


だけど、思い切って転校を決めて良かった。


先輩、頼りない保護者ですけど、よろしくお願いします…!」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


僕を見詰めながら話す彼女に、穏やかな気持ちでそう返すことができた。




こうして僕たちは、沙奈子と結人くんの保護者として、お互いに協力していくことを改めて決めたんだ。


そう、保護者としてね。


鷲崎さんもそれで満足みたいだった。


もちろん、正直な部分では思うところもあるんだろうけど、それは誰にでもあることだろうし、でも彼女も今の関係が一番だっていうのを感じてくれてるのも分かってた。


そんな諸々も含めて、さあ、小学校最後の一年だ。それがいい経験になるように、僕たちも頑張らなくちゃね。



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