六百五十二 織姫編 「まるで修行僧みたいだ」
四月十五日。日曜日。鷲崎さんの職場の同僚っていう人からのオーダーメイドを受けて、沙奈子はさっそく、千早ちゃんたちが帰った後でささっと午後の勉強を終わらせ、それに取り掛かってた。
昨日あれから、その人に鷲崎さんが連絡を取って大体のイメージを聞いた上でスケッチを起こして、大まかなところを決めて、今朝、そのラフスケッチを受け取ったところだった。
今はまだあまり複雑な形のドレスを作るのは難しいけど、それは割とシンプルな、だけどウエディングドレスをイメージした真っ白なドレスだった。今まで作ったものよりはフリルも多めで手間がかかりそうだ。なのに沙奈子はまったく躊躇う様子もなく、鷲崎さんのラフスケッチを見ながら型紙を作り始めた。
それがもう当たり前のように淀みなく進む。この子の頭の中ではもう完成品の形が見えてるのかもしれないって気がした。
『できれば予算は一万円くらいで…!』
との要望だった。だけど沙奈子にしてみれば金額の問題じゃないようだ。鷲崎さんのラフスケッチを見た時にスイッチが入ったみたいに真剣な表情になってたし。
「沙奈子ちゃん、真剣だね……」
玲那も息を呑む感じでそう言ってた。僕も、「そうだね…」としか答えられなかった。絵里奈のアドバイスがなくてもこんな風にできるなんて、すごい成長だと息を呑む感じさえした。
って言うか、僕にはまったく想像もつかないレベルにすでに辿り着いてるっていう気もする。
絵里奈と一緒に洋裁専門店に行った時に買った材料を広げてそこからイメージに合うものをピックアップして、莉奈に合わせていく。今回、ドレスを作るドールのサイズがほぼ莉奈と同じだったらしい。だからちょうど莉奈が役に立った。そうして特にしっくりくるのを選んでるって感じだ。
その姿はもう、完全に小学生の女の子って感じじゃなかった。あきらかにプロのそれだったと思う。
材料が決まれば型紙を作って部品を切り出していく。そこにも何のためらいもない。
今、沙奈子の目には材料しか見えてないのかもしれない。
僕たちはただそれを見守るだけだった。
それでも、ちゃんと休憩は取るみたいだ。夕食の用意を始める時間になるとパッと作業をやめ、準備を始める。そんな姿がまたすごくストイックに見えて、まるで修行僧みたいだなとさえ思ってしまった。
今日の夕食はまたハンバーグだった。結人くんが気に入ってくれたみたいだから、土曜か日曜のどちらかはハンバーグに決まってしまってたんだ。




