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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百五十 織姫編 「トラブルはごめんだよ」

四月十三日。金曜日。結人ゆうとくんのことは、基本、学校に任せる感じになっていた。家ではあまり積極的に他人と関わろうとしない彼に馴れ馴れしくすることはあまり好ましくないって感じてたし。


それでも学校ではそういうわけにもいかないだろうから、彼がもし学校でストレスを感じてくるようならそれは鷲崎わしざきさんに対処してもらわなくちゃいけない。そして僕たちはその鷲崎さんを支える形になると思う。


そんなことを思いながら部屋を出ると、やっぱり鷲崎さんが、


「おはようございます!、いってらっしゃい!」


と元気よく声を掛けてくれた。


「はい」と笑顔で応えさせてもらう。彼女としては、こうして僕を見送ったり出迎えたりっていうのが嬉しいみたいだ。彼女の好意には応えてあげられないけど、せめてこうやって挨拶を交わすくらいはとも思う。


最初は、勤務形態が違うからあまり顔を合わすこともないかなと思ってたのに、だからこそこうしてわざわざ出てくるんだろうな。


鷲崎さんは、とても魅力的な女性だ。もし僕が絵里奈と出逢ってなかったら、絵里奈と出逢うより先に彼女と再会していたら、もしかしたらと思わないこともない。


でもそれは、言っても詮無い『たられば』なんだ。僕の奥さんは絵里奈で、鷲崎さんは大切な友人の一人だ。友人だから放っておけないし、力にもなりたいと思う。でも、それ以上にはなれない。


普通の男性だったら魔が差してしまうことがあるとしても、僕の心はまったくそういう意味では揺らがなかった。本当に訓練されたかのように動かない。彼女を女性として見ようとは思わない。絵里奈には感じるものが、鷲崎さん相手には感じない。


だけど、それでいいと思う。ここで僕が心乱されたら、色々な問題が起こるだろうからね。今のこの関係がいいんだ。絵里奈もそれは認めてくれてる。僕を信じてくれてる。だからそれに応えたい。


こういう部分でも僕の『普通じゃない』部分が役立ってくるなんて、皮肉だな。


世間的には『おかしい』と思われるのかもしれない。物語として見れば僕がぐらついた方が盛り上がるのかもしれない。だけど僕の心はやっぱり動かないんだ。いまだに、絵里奈以外の女性を、『性的な意味で』女性として見ることができない。


きっと、男性として見れば精神の大事な部分が壊れてるんだろうなとは思うけど、むしろ清々しいくらいにそれでいいと思ってる。


これ以上のトラブルはごめんだよ。そうでなくてもトラブルは勝手に向こうからやってくる。それをわざわざ自分から招くなんて、有り得ないよ。



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