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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百四十六 織姫編 「特別なだけだ~」

四月七日。土曜日。朝は降ってなかった雨が、昼前からまた降り始めて、しかも結構激しい降り方だった。かと思うと急にやんだりして、降ったりやんだりが続いてる。その上、なんだかひどく寒くなってきた。


なので今日は、バスじゃなくタクシーでいつもの人形ギャラリーへと向かった。タクシー代は痛いけど、たまのことだからね。


「お父さ~ん、織姫ちゃんに誘惑されちゃってな~い?」


絵里奈と沙奈子は当然のようにギャラリーの方に行って、僕と玲那が喫茶スペースで二人を待つ間に話をしてた。で、スマホに繋がったイヤホンからそんな玲那の『声』が聞こえてくる。


「大丈夫だよ。鷲崎さんもそこはわきまえてくれてる」


苦笑いを浮かべながら僕はそう返した。


玲那だって本気で心配してるわけじゃない。ただの挨拶みたいなものだ。だから、


「ならいいんだよ~ん」


と笑ってた。鷲崎さんとは、今日も夕食を一緒にすることになる。基本的には土日は一緒にということにして、結人くんの様子を窺いながら慎重に慣らしていこうということになってる。本当は、それこそ山仁やまひとさんのところに行ければと思うんだけど、さすがにまだ今は無理だと、僕も鷲崎さんも星谷ひかりたにさんも見解が一致してた。


山仁さんとしては「いつでも来てくださっていいですよ」とは行ってくれてるけど、むしろ結人くんの方の負担が心配なんだ。親しくもない人の家に無理に連れていかれるというのはかなりのストレスになるからね。




四月八日。日曜日。寒い。何だかすごく寒い。まるで冬に逆戻りしたのかっていうくらいに寒く感じた。


昨日の夕食は、カレーだった。沙奈子のカレーは、絵里奈直伝の、ルウから作る本格的なカレーだった。


「ぐ~っ!。小学生の女の子に負けてる~…!」


僕と同じで、市販のカレールウを使ったカレーしか作れないということで、鷲崎さんが落ち込んでたりもした。だけど、ビデオ通話画面の向こうで玲那が、


「はっはっは!。それは私も同じだ~!。心配要らん、沙奈子ちゃんが特別なだけだ~!!」


と、励ましなのか何なのかよく分からないことを、胸を張って言ってたりもした。


「そうですね。私や沙奈子ちゃんは料理をするのが好きだから凝ってしまうだけです。鷲崎さんが絵が上手なのと同じですよ」


絵里奈もそう言ってフォローしてくれる。


「うう…、ありがとうございます~…」


そうやって僕らが楽しそうにしてる間、結人くんは一人黙々とカレーを食べてた。


ここでもし、『こんなの食えるか!』みたいに言われたらさすがに辛いけど、そうじゃないからね。


沙奈子も、穏やかな表情で彼のことは見守ってたのだった。



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