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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百四十 織姫編 「敵意に満ちた目」

鷲崎わしざきさんと結人ゆうとくんの挨拶が終わって、僕と沙奈子は絵里奈と玲那に会うために、二人に連絡を入れた。


「今から行きます」


と、絵里奈が応える。


二人が来るまでの間、沙奈子は午後の勉強をすることになった。そしてちょうどそれが終わった頃に、


「バス停についたよ~ん」


っていう玲那の『声』が僕のノートPCから聞こえてきた。


『分かった。すぐ行くよ』


僕はそう返して、沙奈子と一緒に部屋を出た。すると、どこかに出掛けてたのかアパートの方へと歩いてくる結人くんの姿が見えた。


「こんにちは」


そう声を掛けたけど、僕に合わせるようにして沙奈子も彼に向かって頭を下げるのが分かったけど、彼の方からの返事はなかった。会釈すらなかった。それどころか明らかに敵意に満ちた目で睨み付けてくるのが分かった。


普通ならここで『生意気な!』とか思ったりするのかもしれないけど、僕にはまったくそんな感情は芽生えてこなかった。自分でも不思議なくらい平然としていた。彼に対して腹を立てないといけない理由がまったく湧いてこなかったんだ。


鷲崎さんから聞いていた内容だけでも、彼が『普通の子供』でいられない理由は十分すぎるくらいにあると感じてた。僕も彼と同じ頃には親しくもない人から挨拶をされても無視してた気がする。そういうことも影響してたんだろうな。


僕に対して愛想良くしてもらう必要は全く感じない。僕には彼の気持ちを解きほぐすことができるとも思わない。ただ、見守っていたいだけなんだ。もう、大人から攻撃を受けることはないっていう状況を作ってあげたいだけなんだ。


警戒している獣みたいに僕たちのことをじっと睨んでくる彼の横を通り過ぎて、僕と沙奈子は絵里奈と玲那に会う為にバス停へと向かった。その途中でちらっと振り向いた時には結人くんの姿はなかった。たぶん部屋に戻ったんだろう。


何気なく沙奈子の様子を見ると、彼女もまったくいつもと変わりなかった。でも、考えてみればそれが少し不思議だったはずなんだけど、この時の僕はそこまで頭が回ってなかった。


だって、沙奈子は本来、暴力的な雰囲気が苦手なはずだったんだ。なのに、あんなに敵意を剥き出しにした目で睨まれてたのに、沙奈子はそれを全くと言っていいほど気にしてなかったんだ。それが不思議なはずにも拘わらず、そのことについて何の疑問も持っていなかった。あまりにも自然で普通にしてたからかもしれない。


思えば、この時にはもう、この子は彼のことを認めてたのかもしれない。


『自分の仲間』だって。



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