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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百三十九 織姫編 「愛想良くできない」

僕のところに引っ越しの挨拶に来てくれた鷲崎わしざきさんの隣に立っていたのは、話に聞いてた時の印象で抱いていたイメージからは少し離れた、沙奈子よりは背は高いけれど明らかに千早ちはやちゃんよりは少し小柄で痩せた感じの、でも確かに目付きが鋭くてふてぶてしいっていう表現がぴったりくる、なんだか『獣』を思わせる男の子だった。


「君が結人ゆうとくんだね。初めまして。僕は鷲崎さんと同じ大学に通ってた山下達やましたいたる。そしてこっちは、僕の娘の沙奈子さなこだ。よろしくね」


と、僕は、結人くんに視線を向けながら、でも努めて穏やかな気持ちでそう挨拶させてもらった。そんな僕の隣には沙奈子も立ってた。普段と変わらない、落ち着いた様子で。


でも、結人くんからの返事はなかった。視線を逸らしたまま黙ってる。すると鷲崎さんが慌てた感じで、


「もう、またそんな顔する。ちゃんとご挨拶しなきゃダメでしょ、結人…!」


って、結人くんをたしなめた。だけど、僕は気にしてなかった。気にならなかった。


「ああ、いいよいいよ。気にしてないから。愛想良くできないのはうちの沙奈子も同じだし。事情は分かるつもりだよ」


そう。結人くんも黙ったままだったけど、沙奈子も同じように彼に対しては別に挨拶とかする様子がなかった。鷲崎さんに対しては頭を下げたのが分かったけどね。まあ、鷲崎さんと結人くん両方に対して一緒に挨拶したつもりかもしれないけどさ。


でもまあ、愛想良くしてるわけじゃないのは確かだから。


だけど鷲崎さんは恐縮しきりって様子で、


「ごめんなさい、ごめんなさい…!」って何度も頭を下げてた。


そんなこんなで挨拶も終わり、僕たちがこれから絵里奈と玲那に会いに行くことを知ってる鷲崎さんは、すぐに自分の部屋へと戻っていった。


実は、他の部屋の住人である秋嶋あきしまさんたちへの挨拶は、玲那を通じて既に済ましてた。秋嶋さんたちもあんまりそうやって知らない人と顔を合わすのは得意じゃないから、玲那が連絡を取って、『鷲崎さんと結人くんっていう友達が入居するからよろしくね』と話してくれてたんだ。


その時、一緒に、


『結人くんは、沙奈子ちゃんの男の子バージョンのワケアリの子だからいろいろあるかもだけど、そこは私の顔に免じて大目に見てあげてね。だけど、もしどうしても、迷惑だな、許せないなってことがあったら私に言って。私からお父さんに伝えて、お父さんから鷲崎さんに伝えてもらうから。そしたら大丈夫だから』


っていう風にも言ってくれてたんだ。



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