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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百三十八 織姫編 「挨拶に伺いました!」

三月三十一日。土曜日。今日、鷲崎わしざきさんと結人ゆうとくんがいよいよアパートに来るそうだった。だから今日は、まず二人と顔を合わせてから絵里奈や玲那と会いに行くことにした。時間とすれば一時過ぎくらいになるらしい。それからとなると、鈴虫寺の近くの喫茶店に行くのがちょうどいいということでそうなった。


沙奈子も、それで納得してくれてる。


もしこれで絵里奈や玲那に会うのを我慢してほしいみたいな話になれば納得できないかもしれないけど、一緒にいられる時間は短くなってもちゃんと会えるんだからということで納得はしてくれてるんだと思う。


朝からずっとビデオ通話で絵里奈や玲那と顔を合わせて掃除や洗濯を済ませて、午前の勉強をして、人形のドレス作りをして、昼食を食べて、午後の勉強を始めた頃、アパートの二階へと上がる外階段を、ガンガンと乱暴に踏み鳴らす、いつもとは全然違う気配があった。このアパートに住む他の人たちはすごく大人しくてむしろ自分の気配を消そう消そうとしてるくらいだから、そんな歩き方はしない。


『もしかして…』


と、僕はピンとくるものを感じてた。だって、ガンガンという足音以外にも、ちょうどパンプスで階段を上るような音もしてたから。女性と、やや粗雑な感じの人という組み合わせ。いかにも鷲崎わしざきさんと結人ゆうとくんという感じだった。


僕が感じたとおり、その二人が二階の部屋に入っていく気配があった。ああもうこれは間違いないなと思った。


そしてしばらくすると、二階から人が下りてくる気配がした後、玄関のチャイムが鳴らされた。


ドアスコープから覗くと、そこにいたのはやっぱり鷲崎さんだった。隣に男の子が立っているのも見えた。彼がきっと結人くんだな。


玄関の鍵を開けて「はい」と声を掛ける。すると鷲崎さんがニコッと笑って、


「こんにちは、先輩!。結人を連れて改めて挨拶に伺いました!」


とはきはきとした声で言ってから、大きく頭を下げた。


ああ、僕の知ってる鷲崎さんだ……。


何となくそんなことを思ってしまって、ホッとするのを感じてた。結人くんのことで泣いてたりもしたけど、もうすっかり大丈夫そうだ。もちろん、この時点では完全には今回の件は終わってなかったのも事実ではあっても、もうくよくよする必要がなくなってるというのもそうなんだって実感があった。


良かった…、本当に良かった……。取り返しのつかないことにならなくて……。


人懐っこく笑う鷲崎さんの圧には少し気圧されながらも、


「わざわざありがとう。鷲崎さん」


と、僕は応えていたのだった。



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