六百三十五 織姫編 「聞いていい話」
「ところで、探偵事務所に背景を探ってもらう件ですが…」
不意に星谷さんがそんなことを言い出した。僕たちは思わず背筋が伸びる気がした。なにがあったんだろうって思ってしまったから。だけど彼女の口から出たのは…。
「実は、鯨井結人くんに怪我を負わせた相手の宿角健侍くんに関して、別口から同様の依頼があり、調査についてそちらで判明した情報を提供していただけることになりました。つきましては費用については大幅に節約できることになります。正確な金額については後程になりますが、おそらく二万円に届かない金額で済むでしょう」
「え?、そうなんですか…!?」
思わぬ話が飛び出して、鷲崎さんが驚いて声を上げた。僕と玲那も驚いた。別口の依頼って、他にも誰か、相手の子について調べてた人がいたってことかな。とか思ってると、星谷さんが説明してくれた。
「依頼者等についてはもちろん明かせませんが、以前、次男の頭を殴って頭蓋骨骨折の重傷を負わせ現在拘留中の宿角健雅容疑者の長男というのが、今回の宿角健侍くんだということです。そちらの事件に関係して調査の依頼があり、ここまでですでにかなりの調査が行われていたとのことです」
…その事件、覚えてる。『言うこと聞かないから躾のつもりで殴った』とか言ってた事件だよね。しかも、鷲崎さんが『もしかして』って言ってた通り、本当に親子だったんだ……。
って、そんなこと、僕たちに話してよかったの?。
「星谷さん、それ、僕たちが聞いていい話だったのかな…?」
ちょっと心配になってそう尋ねると、彼女は平然として、
「皆さんなら問題ないと判断しました。それにこれは既にネット上にも出回ってる情報です。どうやらその辺りで宿角健侍くんに心理的な負荷がかかっていたようですね。それが今回の事件に繋がった可能性もあります」
だって。
そうだったのか…!。
後から分かったことだけど、父親が起こした事件のことで宿角健侍くんに対しても嫌がらせがあったらしい。その嫌がらせをしたのは結人くんとは全く関係ない別人だったけど、それでイライラが溜まって結果的に結人くんに八つ当たりって形でケンカを吹っかけた形になったそうだ。
本当に、余計なことをする人のせいでこうやって別の事件が起きるんだなっていうのを改めて実感させられる一件だった。
その後、宿角健侍くんは親戚のところに改めて引き取られることになったらしいけど、詳しいことについてはもう、僕たちには分からなかった。
それに、僕たちには首を突っ込めるようなことでもなかったからね……。




