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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百三十 織姫編 「近くにいればもっと」

僕は別に、学校というものを一括りにして悪者にしたい訳じゃない。確かに自分が通ってた時には嫌な思いもしたものの、沙奈子のことではすごくお世話になったから見直しもしたし感謝もしてた。


だけど、学校によっては今でもあの頃とあまり変わらないところもあるんだっていうことも思い知らされてしまったんだ。それが残念で仕方ない。


どうしてそんなことになってしまうんだろう……。


しかもそれは、これで終わりじゃなかったんだ……。




三月二十一日。水曜日。春分の日。雨。時折雹も降る、冷たい雨だった。


鷲崎わしざきさんのことが気になって、今日は朝からずっとビデオ通話を繋いだままにしてもらった。鷲崎さんとしても仕事どころじゃなかったし心細かったから助かったみたいだった。


絵里奈は今日も仕事だから気になるみたいだけど行ってもらった。沙奈子は午前の勉強を、玲那はフリマサイトで売れた品物の発送作業とかをしてる。


お昼前になると、


「じゃあ、結人ゆうとのお見舞いに行ってきます」


と言って鷲崎さんは部屋を出て行った。何かあったらすぐに電話してくれたらいいと伝えておいた。


星谷ひかりたにさんにも相談しようかと思ったけど、今日はいろいろと人に会わないといけないそうで、夕方のいつもの会合の時間までは都合が付かないみたいだ。


こちらの都合に合わせてもらう訳にはいかないから、それは仕方ないと思う。


「織姫、けっこうまいってるみたいだね…」


玲那が作業の合間にそんなことを言ってくる。


「そうだね……。こんな時、近くにいればもっと力になれるのに……」


今さら言っても無駄なのは分かってても、ついつい考えてしまう。


『あの時、もっと転校を強く勧めていれば』


って……。


いや、駄目だ駄目だ。そんなこと考えても無駄だって昨日も自分に言い聞かせたところじゃないか。


ふと、僕の膝で黙々と人形のドレス作りをする沙奈子に目がいった。この子はどう考えてるんだろう……。


沙奈子は、今回のことで殆ど何も言ってこなかった。たぶん、自分が力になれることじゃないのは分かってるからだと思う。下手に慰めるようなことを言っても空々しいだけだっていうのも感じてるのかもしれない。玲那の事件の時に、事情がよく分かってない人間があれこれ言うのがどれほど当事者を傷付けるか思い知ってしまったからかもしれないけど……。


それでも、この子が何も感じてないっていうわけじゃないのも分かる。鷲崎さんが辛そうにしてるのを見ると、沙奈子も悲しそうな表情になるから。


この子は、そういう感受性は今でもちゃんと持ってるんだ。



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