六百二十七 織姫編 「嫌な雨だな」
三月十八日。日曜日。今日も寒い。少し前まですごく暖かかったのが嘘みたいだ。もちろん真冬の寒さに比べればマシになってるのは分かるけど、それでも一旦は暖かかったから余計に寒く感じる。
そんな中でも、千早ちゃんと大希くんは元気だった。
「沙奈~!、あたためてぇ~♡」
って感じで千早ちゃんが沙奈子に抱き付く。それを大希くんは笑いながら「い~からさっさと入れ!」とツッコんでた。
昨日はまたのぼせてたという星谷さんももう落ち着いたみたいだ。
「お恥ずかしいところをお見せしました……」
とは言ってたけど。なんでも、また大希くんに背中を流してもらって頭に血が上ったらしい。
でもまあ、僕はそれも彼女らしくていいと思う。いずれは慣れるにしても、そうやってのぼせるくらいときめけるというのもいいんじゃないかな。僕にはない感覚だよ。人それぞれでいいと思う。
なかなか完全には春の陽気とはいかないけど、僕たちはとても平穏だった。
三月十九日。月曜日。朝、目を覚ました頃、結構な雨音が外から聞こえてくるのが分かった。
雨か…。雨音はむしろ好きなはずなのに、この日の雨はなんだか憂鬱な気分にさせる感じだった気がする。なぜだろう?。
でもそんなことを気にしてても仕方ない。気持ちを切り替えて仕事仕事。沙奈子ももうすぐ春休みだ。そして今日と明日は、六年生の卒業式の予行演習があるそうだ。木曜日が本番なんだって。それが終わると六年生は卒業し、金曜日は終業式だ。
四月からは沙奈子も六年生なのか。なんか、不思議だな。
三月二十日。火曜日。昨日に引き続き今日も朝から雨だった。何となく嫌な雨だなってなぜか思ってしまう。
そして、定時になって仕事を終えて会社を出た時。不意にスマホに着信があった。このタイミングでの電話なんて、正直、ドキッとする。どうしても、沙奈子に何かあったのか?っていうのが頭をよぎってしまうから。
でもこの時の電話はそうじゃなかった。見ると、鷲崎さんからだった。学校とかからじゃなかったから沙奈子のことじゃないとホッとしつつ、でもどうしてこんな時間に鷲崎さんが?とは思ってしまった。
「はい」と電話に出た僕の耳に、いつものそれじゃない鷲崎さんの声が…。
「先輩…!、結人が……!」
その言い方に、僕の頭には思い出したくもないものがよぎってしまった。あの時の、玲那の時の、電話の向こうの沙奈子と同じ……。
だけど僕は、呆然としてしまいそうな自分を奮い立たせた。また同じようにうろたえるだけじゃ駄目だ。こんな時こそしっかりしなくちゃ…!。
「鷲崎さん、慌てなくていい。ゆっくりと、順を追って説明して…!」




