六百二十六 織姫編 「そりゃ一大事だ」
「いや~、ピカのゆでだこぶりは壮観だったな~」
お風呂から帰ってきて玲那がさっそくそんなことを言ってた。大希くんと一緒のお風呂は、星谷さんにとってはまだまだ冷静にはなれないものなんだな。
でもそれとは正反対に、大希くん自身は、自分以外はみんな女性というお風呂の中でも平然と悠然と泰然自若としてたらしいけど。
「大希くんも達さんと同じで女の子をいやらしい目で見ないから一緒に入っててもぜんぜん気にならないですね」
絵里奈もほわっとした笑顔でそう言う。実に平和だ。
沙奈子も、大希くんと一緒のお風呂にまったく動じた様子もなかった。お風呂に入る前、「大希くんも一緒かもしれないけど大丈夫?」と聞いても「うん」と平気な顔をして頷いた。以前は、自分の体が変化してきたことに気付いた時に僕に対しては恥ずかしそうにしてたこともあったのにも拘らず。つまりこれは、大希くんのことを異性としてまるで認識してないということなんだろうな。それが改めて実感できてしまった気がする。
正直、なんか複雑だなあ…。これでいいのかなあ……。
沙奈子自身の女の子としての恥じらいとかそういうのもそうだけど、ここまでみんなして大希くんを男の子として見てないっていうのは、なんだか申し訳ない気もしてくる。大希くん自身はそれをどう思ってるんだろう?。
もしそれが嫌だったらきっと山仁さんには正直に言うだろうから、それがないということは大丈夫なのかな。
それにまあ、楽しめたみたいだからいいか。何か僕一人が気をまわしてるだけみたいになってきてる気がする。
お昼が終わって午後からは、僕と沙奈子と絵里奈と玲那の四人でお風呂に入った。四人で一緒に浸かっても余裕のお風呂でのんびりする。その光景が何だか温泉に浸かるカピバラみたいだなとか思ったりしつつ。
僕たちが上がった後は、波多野さんたちがまたお風呂に入っていくのが分かった。その時、田上さんが僕たちの部屋に来て、
「ごめんなさい。ピカがまたのぼせちゃって、様子を見ててあげてもらえますか?」
だって。
「そりゃ一大事だ。見に行かねば!」
と玲那が嬉しそうに行ってしまった。あんなことを言っててもちゃんとしてくれるのは分かってるから任せておけばいいと思うけど、ホントにしょうがない子だなあ。
なんてこともありつつ、帰る頃には星谷さんも復活しててみんなで旅館を後にした。
いつか鷲崎さんも一緒に来られたらいいのにな……。
改めてそんなことを思ったのだった。




