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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百二十五 織姫編 「一緒に入れなくて」

目的の駅で降りて今度はバスに乗り換える。そこからも十分と掛からなかった。整然とした行動で、ホントにスムーズだ。大希ひろきくんも楽しそうにはしてるけど、ひどくはしゃいだりはしなかった。


そしてバス停でバスを降りると、待っていた絵里奈と玲那も合流して、旅館へと向かった。


「ようこそおこしやす」


女将さんの丁寧な出迎えを受けて、さっそくそれぞれの部屋に通された。星谷ひかりたにさんたちのグループと、僕たち家族は一応、別の部屋ってことになる。建前上は別口だからね。


僕たちの方の案内をしてくれたのは、木咲きざきさんだった。


「みほっちヨロシコ~」


なんて玲那が友達として声を掛けても、さすがに仕事中だからか木咲さんは「どうぞごゆっくり」と丁寧に頭を下げただけだった。


まあでも、後は慣れたものだ。お昼までさっそく、沙奈子と絵里奈と玲那がお風呂に入るために立ち上がった。すると、星谷さんたちの方もお風呂場に向かったみたいだった。


「あはは、さすがに混雑するかな~」


波多野さんがそう声を上げるのが分かった。


今回は、お昼までは女の子プラス大希くんで一緒に入ってもらって、午後の一時間を僕たち家族が、その後で星谷さんたちがという形に振り分けることになっていた。


大希くんはともかくさすがに僕は女子高生たちと一緒に入るわけにはいかないからね。絵里奈と玲那も、大希くんなら平気だということでそうなった。沙奈子はもっと気にするかなと思ってたのに、まるでそんな気配もなかった。心配してたのは僕だけか。


でもまあいいや。その間、僕は一人でゆっくりと、部屋に備え付けられていたマッサージチェアのお世話になるから。


はあ…、いいなあ……。たまにはこういうのも。


いくら仲のいい家族でも、時には一人になる時間も必要なのかなと思ったりもする。僕がマッサージチェアに酔いしれてると、木咲さんがお昼の用意をしてくれていた。


「一緒に入れなくて残念ですね」


なんて、ちょっと冗談めかして言ってくる。玲那が相手だとついつい仕事モードを忘れそうになるから自重してたんだろうけど、僕が相手だとあくまで接客の一部として軽口もたたけるってことみたいだ。


「あはは、そうですね。でもそのおかげでマッサージチェアを独占できてますから」


と、僕も普段以上に軽い感じで応えられた。


そんな僕の耳に、楽し気な声が微かに届いてくる。お風呂場でみんなが楽しんでる声だ。


すると、ふと、僕の頭によぎるものがあった。


鷲崎わしざきさんもこんな風にゆっくりできたらいいのにな……』


って。


ああでも、結人ゆうとくんがいるとそうはいかないのかなあ。そんなすぐに僕たちに気を許してくれるとは思えないしなあ。



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