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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百二十三 織姫編 「悪人を倒すことは」

厳密に言うと、星谷ひかりたにさんの思う『立派な大人』は僕たちの思うそれとは微妙に違ってるんだろうなっていうのは、彼女の普段の言葉の端々から感じてた。


星谷さんは実際に社会的に見ても立派な人たちを身近で知ってるから、たぶん、そういう人たちが頭にあるんだろうな。しかも彼女自身がいつかそういう立派な人になる気もする。彼女にはそれだけの力を感じる。


だけど、僕はそんな風には決してなれない。偉業を成し遂げることも、悪に対して敢然と立ち向かうこともできない。巨大な恐竜の足元を、目を盗みながらひっそりと息を潜めてやり過ごすだけの弱者だ。


でも、僕は悪人を倒すことはできないけど、その代わり、自分の家族から悪人を出さないようにしようと思うんだ。悪人を倒すんじゃなくて、そもそも悪人を生まないという形でね。それなら、どんなに弱い人間にだってできるはずなんだ。大切なことをちゃんと伝えられれば。


伝えなければ伝わらない。言わなければ分からない。自分で手本を示さなくちゃ真似できない。自分と、自分以外の人間を大切にするというのはどういうことかってね。


僕はただ、沙奈子と、これから生まれてくるかもしれない子供のために、それができる人間になりたいだけなんだ。




月曜日と火曜日は特に何もなかったからスルーして、三月十四日。水曜日。


昨日もそうだったけど、今日も昼間はすごく暖かかった。会社から帰る時も暑いくらいだ。今日と明日が暖かさのピークと天気予報では言ってたけど、どうなんだろう。この調子で温かくなられると逆に暑くて困るかな。


あと、今週の土曜日、星谷さんたちと一緒にあの旅館に行くことになった。と言っても部屋は別だけど。キャンセルが出たことを木咲きざきさんが玲那に伝えて、じゃあちょうどいいやってことで僕たちが滑り込んだ形だ。お風呂が利用できる時間は部屋ごとに振り分けられてる形だけど、その辺りは融通を聞いてもらえるんだって。




三月十五日。木曜日。今日ははっきり言って、昼間は暑かった。暖かいどころか暑い。なんだろうこの陽気。


なのに、翌日の金曜日は昨夜から降り出したらしい雨が朝になっても続いてて朝からはっきりと暖かいと感じてたのが昼くらいになると朝よりむしろ寒いくらいになってしまった。


危ない危ない。こういう時に風邪をひいたりするんだろうな。


夜にはまた鷲崎わしざきさんとビデオ通話で話をした。相変わらず結人ゆうとくんと学校の方はとりあえず落ち着いてるみたいだった。そのままでいってくれればいいんだけどとすごく思う。



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