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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百二十二 織姫編 「自分が納得できない」

星谷ひかりたにさんが言ったことは、僕もすごく気になってたことだった。まさか彼女と同じようなことを考えられてたのかと思うと気恥ずかしささえ感じる。ああでも、高校生の女の子が自力で辿り着いたことを三十の僕が最近になってようやくっていうのは、あまり自慢にならないか。


なんてことを考えつつも、


「僕も、沙奈子にとって『駄目な大人の見本』にはならないようにっていつも思ってます。


もちろん僕は立派でも尊敬に値する人間でもないです。でも少なくとも他人を傷付けたり苦しめたりする人間にはなりたくない。僕の両親や、沙奈子の両親みたいな人間にはなりたくない。それをいつも心に留めるようにしてます。


と言った僕に、玲那が続く。


「私の両親もね。あの人たちは本当に最低な人間だった。最低で可哀想な人間だった。あの人たちがどうしてあんなのになっちゃったのか、私もすごく考える。あの人たちを育てた人たちがどんなだったかって考えてる……」


「玲那……」


ビデオ画面の中で彼女は、視線を落としてキーボードを見詰めながらそう言った。機械音声っぽさが残るその声が余計に玲那の心の中にあるものを表してる気がして、胸が痛い。


「私はあの人たちを許さない。許せない。だけどもうあの人たちはいない。だからさ、私があの人たちとは全然違う大人になればいいって思うんだ」


そう言う玲那の姿がまた、僕を支えてくれてる。『大人だって人間なんだからいいじゃん』と甘えて感情任せになってしまいそうな自分を戒めてくれる。ムカついたからって誰かを罵ってしまいそうな自分を抑えてくれる。


僕は今、この子たちの視線に晒されてるんだ。この子たちが、自分のためだったら人を傷付けても構わないなんて考えてしまうような人間にならないように、大人のそういう姿を真似しないようにしなきゃならないって気付かせてくれる。


ニュースの中にいるような大人たちが世界のすべてじゃないって僕たちはこの子たちに見せなきゃいけないんだ。店員に対して横柄な態度をとったり、会社で誰かをいびったり、ルールを当たり前みたいに破る大人ばかりじゃないって見せなきゃいけないんだ。


誰かの陰口を並べて傷付けたり、徒党を組んで一人を追い詰めたり、陥れたりするような大人ばかりじゃないって。


大人がそんなことをしてるのに、子供に『イジメは良くない』って言ったって、そんなもの、ぜんぜん説得力がないよ。僕だって納得しない。自分が納得できない言い方をしてて、行為をしてて、子供が納得してくれるなんて考える方がおかしいって気がする。



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