六百十九 織姫編 「家ではどんなに」
家庭で辛い思いをしてた千早ちゃんは、自分の思い通りになる可愛い弟として大希くんを欲してた。でも、それを理由に沙奈子にきつく当たることは大希くんとしては認められなかったからあくまで二人の間を取り持とうとして、学校側から指導されたこともあって千早ちゃんは沙奈子にきつく当たるのをやめる代わりに大希くんに猛アピールし始めて、それで今度は彼との関係を拗らせてしまった。
そこに現れたのが星谷さんで、千早ちゃんが、実のお姉さんからあらぬ疑いを掛けられたのを見事に解決してみせて、彼女にとっての理想の『優しいお姉さん』になることで、千早ちゃんが精神的に安定したんだったかな。
それからはあれよあれよという間に、僕のアパートで、ホットケーキ作りを皮切りに料理を覚えて、嫌々家事をやってていろいろ皺寄せを千早ちゃんに押し付けてたお姉さんたちの代わりに料理をするようになって、それ以外の家事もするようになって、とうとう完全に家の中のこと全般を掌握してしまって、今じゃ彼女がいないと家庭が成り立たなくなってしまったっていう。
しかも、そうやって家のことを掌握してしまった千早ちゃんが今までの仕返しとかするんじゃなくてただ『お母さん役』を演じてくれてるから、本当のお母さんやお姉さんたちも安心して彼女に頼れることで、表情まで柔らかくなったらしい。もちろん、叩いたり怒鳴ったりもほとんどしなくなったって。たまに機嫌が悪い時はあっても、そっとしておけばそのうち治るって感じで。
だからますます、家の中が穏やかなことがどれだけ大事か、思い知らされたんだ。家に帰れば安心できたら、外でもイライラする必要なくなるって。
もちろん全てが全てそうとは限らないにしても、外でイライラして他人に当たり散らさなきゃいけない大きな理由がなくなるのも確かじゃないかな。と言うか、本当にわざわざ他人に当たり散らしてその人から恨まれたりやり返されたりしなきゃいけない理由って何があるの?って思う。自分は他人の思う通りにできないのに、他人がちょっと自分の思う通りにしてくれなかったからって腹を立てて噛み付いたりする必要がどこにあるのって思うんだ。
自分ばっかり他人に嫌な思いさせられてるとか、おかしいよ。自分が他人に嫌な思いさせてることもあるはずなのに。そういうのを棚に上げて他人を攻撃しなきゃいけないのなんて、結局、家に帰っても安心して癒されないからじゃないのかなって気がしてしまう。
家ではどんなに安らげても癒されないほどの目に遭わされてるのなら、それは普通に何か警察とか司法とかに頼らないといけない問題なんじゃないかな。




