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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百十七 織姫編 「実はそんなに」

三月十日。土曜日。朝は寒かった気もするけど、思ったよりは穏やかになってきたかな。


今日は、いつもの人形のギャラリーじゃなくて、人形の展示会があるということでそっちに行くことになった。


沙奈子も、いつものように淡々としてるように見えて実は静かに興奮してるのが僕には分かる。分かりやすい行動とか表情をしなくても、本当に何気ない気配で分かるようになってしまった。


笑ってたり、不機嫌だったり、困ってたり、怖がってたり、喜んでたり。


他の人には分かりにくくても、僕には分かるんだ。この子の心の動きが。


いや、『僕たちには』、かな。


僕や絵里奈や玲那だけじゃなくて、大希ひろきくんや千早ちはやちゃんにも分かるらしい。それどころか、山仁やまひとさんにやイチコさんや星谷ひかりたにさんや波多野さんや田上たのうえさんにも。


それはたぶん、みんながあの子のことをちゃんと認めて見てくれてるからだろうな。


でも、だからこそ思うんだ。


結人ゆうとくんや、結人くんに突っかかってるっていうクラスの子は、こんな風にして周りから認めてもらえてるんだろうかって。


結人くんには鷲崎わしざきさんがいてくれるとしても、クラスの子の方はどうなんだろう……。


そんな風に他人に突っかからずにいられないという時点で、もう、精神的に追い詰められてるんだろうなっていう気しかしないんだ。わざわざそんなことをして他人と揉めて嫌な思いをするなんて、穏やかな気持ちでいられてたらしないと思う。


そうじゃないから、自分のストレスを他人にぶつけて解消しようとするんだろうな。そんなやり方しかできないんだろうな。


展示会の会場を、絵里奈と一緒に楽し気に見て回る沙奈子の後を、玲那と一緒について行きながら、僕はそんなことを考えてた。家族でこうやって出掛けて、ううん、家族じゃなくてもいい、こうやって誰かと一緒に出掛けてのんびりと時間を過ごすっていうのをしてないんだろうなって思ってしまうんだ。


沙奈子は、不思議な巡り合わせでこうやって穏やかな時間を過ごせるようになれた。それはもちろん、沙奈子自身がいい子だったからっていうのはあるとしても、あの子みたいな大人しすぎる子を『暗い』とか『何を考えてるか分からない』とか言って毛嫌いする人もいるだろうから、そういう人に囲まれてたらあの子もきっとこんな風になれてなかった気がする。


どこに向けていいかも分からない大きなストレスを抱え込んでイライラして、大人しそうに振る舞ってても不穏なものを溜め込んで、そして児童相談所での一件のように、何かをきっかけにして爆発してたかもしれない。


結人くんに突っかかってるっていう子と、沙奈子とは、実はそんなに違わないような気もしてしまうんだ。



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