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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百十五 織姫編 「良い子という嘘」

三月四日。日曜日。今日も暖かいな。


千早ちゃんたちがお昼を作りに来て、その時に、鷲崎わしざきさんと昨日話したことを星谷さんにも話してみた。


結人ゆうとくんに突っかかってた同級生の子が、他の子を叩いて指導されたみたいです。それで鷲崎さんは、もうしばらく様子を見てみようって言ってました」


「そうですか。その指導がきちんと効果を発揮すればよいのですが……。


私もいろいろ調べてみましたが、指導がうまくいかない事例は、『指導した時点で問題が解決した』と判断してしまっているものが多いようです。実際には、行った指導が本当に伝わっているのか、指導された内容を生徒が理解しているのか、それを慎重に見極めないといけないところを、指導したことで学校側が安心してしまって、実際には問題が解決していないにも拘らずその後放置したことでかえって深刻な事態になってしまっていることが決して少なくないのです。


これは、口頭での注意のみならず、体罰を用いたものでも同様です。むしろ、体罰を行うことでそれで指導が完了したと思い込む傾向にあるようにも感じます。


言葉だけの場合は、それが生徒に伝わっているのかどうか改めて確認しないと分からない場合も多いでしょうが、体罰の場合は行う側の自己満足に過ぎない場合が大半でしょう。それで生徒の側が叩かれないように表面上だけ従っているふりをしていても、叩く理由がなければ手を出すことができません。子供は意外と狡猾なのです。


それは、かつて私自身がそうだったからこその実感です。


私は他人の気持ちや価値観というものを見下し、価値のないものと切り捨てて私の思う『正しさ』を押し付ける人間でした。たとえそれで相手がどれほど傷付こうとも、私のしてることが正しいのだから許される筈だと思っていました。もちろんそんなものは浅ましい思い上がりに過ぎません。しかし当時の私を叱る教師は誰もいませんでした。体罰どころか、口頭で指導する教師さえいなかったのです。


何故か?。


理由は簡単です。私が教師の思う『良い子』だったからです。その内実がどうあろうと、表面さえ取り繕っていれば体罰を与えることはできません。目に見える問題がなければ『罰』は与えられないからです。


子供はそれを知っています。だから嘘を吐くんです。そして大人は、その嘘が自分に都合のいいものであれば疑うこともせず信じてしまう傾向にあります。子供が『良い子』を演じていればそれを信じてしまうのです。


これでは、指導になりません」



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