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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百十二 織姫編 「風の音が」

二月二十六日。月曜日。会社に向かうバスの中で、僕は昨日のことを思い出してた。


『罪を償ったりしたことになってないよね』


波多野さんが言ったことが頭をよぎる。


言われてみたら確かにそうだと思う。玲那はちゃんと警察の捜査にも協力して裁判を受けて判決が出た上で今の生活をしてる。でも、元不良とか、イジメの加害者とかで、本人のやったことが表沙汰になってない場合は、自分のやったことの報いを受けたって言えるんだろうか?。償いとか贖いとかしたんだろうか?。迷惑を掛けた相手や、イジメた相手に謝罪に行ったりしたんだろうか?。


そんな話、聞いたことがない気がする。結局はうやむやにしてなかったことしただけじゃないのかな。


それを考えると、僕はすごく腑に落ちない気分になったんだ。




二月二十七日。火曜日。今日は、沙奈子の学校で授業参観と懇談会がある。だから絵里奈が休みを取って行ってくれることになった。


「沙奈子ちゃんの授業参観~」


と、朝からウキウキだった。前回の自由参観と引き渡し訓練には参加できなかったからね。


仕事が終わって山仁さんのところに寄って、沙奈子と一緒に部屋に帰ってきたらさっそく、絵里奈が学校であったことを報告してくれた。


と言うか…。


「沙奈子ちゃん、しっかり授業受けてましたよ~。頑張ってました~」


って感じで、どちらかと言えばただの惚気だった気もする。ただ、懇談会には敢えて出なかったって。『同居してない血の繋がらない母親』という絵里奈の微妙な今の立場を、他の保護者に説明するのもさすがに難しいものがあるし、担任の先生と少し言葉を交わしただけで帰ってきたそうだった。


僕もそのことについては担任の先生ともある程度話をしてあるから、理解してもらえてると思う。




水曜日は特筆することもなかったしスルーして三月一日。木曜日。


明け方、僕はただならぬ気配で眠りが浅くなるのを感じてた。


『風……?』


そう。風だった。風の音がすごくて目が覚めてしまったんだ。


すると沙奈子が、僕の胸に顔を押し付けるみたいにしていつも以上にくっついてきた。彼女も目が覚めてしまったらしい。


「大丈夫…、お父さんがいるから、怖くないよ…」


そう言って僕は、沙奈子の体をそっと抱き締めながら、とんとんと軽く手で触れた。


それで安心できたのか、彼女はまた寝息を立て始めた。僕も、風が気になりつつもうとうととはできた気がする。


起きる時間にはまだ風が強かったからネットで警報とか出てないか確認したら、強風注意報だけだった。この時間に暴風警報が出てると、取り敢えず午前中の授業は休みになる。


正直、風が強くて不安だったけど、僕が家を出る頃には風も収まっててホッとしたのだった。





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