六百十一 織姫編 「ガキ大将」
「鷲崎さんに、もし、結人くんとそのクラスメイトのことが拗れて大きなトラブルになりそうだったら、いっそ、沙奈子が通う学校に転校したらどうかなって言ったんです。
ただ、やっぱり転校とか引っ越しとかとなるといろいろ大変だし、鷲崎さんも『考えてみます』とは言ってくれたんですけど…」
そうだった。実は昨日、鷲崎さんとビデオ通話で話した時にそれを提案してみたんだ。以前から何となく考えてはいたけど、その時点では具体的にはまったく何も決まってない、本当に単なる思い付きみたいなものだった。
星谷さんが応えてくれる。
「上手くやれるかどうかはやってみないと分かりませんが、お話を聞く限りではその学校の対応は十分ではないと推測できますね。転校というのは、最悪の事態を回避するための選択肢としては十分に検討に値するものだと私も思います。
もしその結人くんという子が転校してきたのなら、学校に馴染めるように私も協力できることはしたいです」
『協力できることはしたいです』そう言ってもらえただけでも僕はホッとしていた。もちろん実際に転校するかどうかはまだこれからだし、ハードルも決して低くない気はする。だけど、取り返しのつかないことになるのを思えばって気はしてた。
本当に、こういう時に障害になることがあるというのは歯痒いなあ……。
夕方。山仁さんのところに行った時にも、またその話になった。
「学校ごとでその辺りの対応がまちまちだというのは非常に残念なことだと私も感じています。それでも、大希たちが通っているような学校があること自体を喜びましょう。それが広がっていくために私たちも協力したい」
結人くんの通う学校が、彼とクラスメイトの軋轢に対して十分な対応ができていないらしいことについて、山仁さんも苦々しくそんなことを口にした。
防犯や、子供たちの非行防止を目的とした啓蒙活動のために警察に積極的に協力してる山仁さんならではのことかもしれないけれど。
そこに、波多野さんが口を開いた。
「そういうのって、昔は『ガキ大将』とか言って逆にもてはやされたものかもしれないけどさ、実際にはその陰で嫌な目に遭わされたり被害を受けたりした子もいたんだろうなって、今は思うようになったよ。
よく昔は不良だったのが更生してみんなを守る側になるみたいな話とかもあるけど、それって、昔に迷惑かけた相手全員に頭下げに行ったりしたのかなあ?って思うようになったんだよね。そうじゃなかったら、そいつが不良だった頃に犯した罪を償ったりしたことになってないよねって」




