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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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五百七十七 大希編 「玲那の声」

『ピカちゃんのことを助けたい!。早く大きくなってピカちゃんと一緒にみんなを助けたい!』


大希ひろきくんがそう言った瞬間、星谷ひかりたにさんの顔がまた、ボッと火が点いたみたいに真っ赤になった。それって、受け取りようによってはプロポーズみたいにも思えるよね。


もちろん、この時の彼がそんなつもりで言ったんじゃないってことくらい分かってる。彼にしてみればあくまで『ピカお姉ちゃんの手助けがしたい』っていうニュアンスで言ったことだと思う。


でも星谷さんにしてみれば、たとえプロポーズじゃなくても『ずっと傍にいたい』って言われたようなものだろうから、意識してしまっても当然なんだろうな。


だけど彼は本当に、素直に言葉通りに考えてるんだっていうのも伝わってくる。自分がたくさん助けられてきたから、純粋に自分もそうするんだって思ってるっていうのが分かる。


さすがに星谷さんのレベルのことをするとなれば簡単じゃないとは思う。それでも彼女の力になるっていうことだったら、それこそ星谷さんの傍にいて励ましてあげるだけでもすごい力になりそうだ。


ただ、そんな二人を見て、千早ちはやちゃんはまた「む~!」って感じでふくれてたけど。


千早ちゃんも星谷さんのことが本当に好きなんだなって分かる。


それが恋愛的な意味なのか尊敬とか憧れ的なものなのかは、今はまだ判別がつかない。けれど、大希くんが純粋に星谷さんの力になりたいと言ってるのと同じように、純粋に『好き』なんだろうなっていうのは分かるような気もした。


この三人の関係が今後どうなっていくのか、何だか興味を惹かれるな。


それだけに、この時の沙奈子の、『自分は一歩引いて見守ってる感』がまた何とも言えなかったけどね。




昨日はあの旅館の予約が取れなかったらしくてみんなでカラオケに行ってたそうだけど、その分、星谷さんにしてみれば今日の大希くんの言葉でしっかり真っ赤になれたって感じかもしれない。


星谷さんは、結局、大希くんのために頑張ってるんだなっていうのを改めて確認したって感じだ。


三人が帰ってから、玲那も言った。『玲那の声』で。


「大希くんの天然タラシぶりがいかんなく発揮されてましたな」


「ししし」って笑いながらそういう玲那に、僕も「確かに」としか言えなかった。


沙奈子の様子を窺ってみると、『我関せず』って感じで人形のドレス作りに集中してた。本当にその手の話には興味が無いんだなあ。もちろん大希くんと星谷さんと千早ちゃんが仲良くしてるのは沙奈子としても嬉しいんだっていうのは分かってる。だけど、仲良くしててくれたらそれでいいってことみたいで、そこに自分が加わろうとか大希くんの気を引きたいとか、そういうのはまったく欠片も見て取れない。


これは、沙奈子のそういう話はまだまだ当分先ってことなのかなあ。


娘の恋愛話にやきもきする父親を演じたいわけじゃないけど、そういうのがまったく気配もないとなるとそれはそれで気を揉んでしまいそうになる。自分でもホントややこしいなと思うよ。


その一方で、大希くんの明るさ真っ直ぐさを目の当たりにすればするほど、辛い境遇にいる子たちのことが胸に刺さる気がするのも事実だった。


沙奈子や玲那や千早ちゃんたちは救われたからまだいいとしても、わざわざ危険なことをせずにいられない結人ゆうとくんのことが、僕は気になってしまうんだ。


そんなことを考えながら、黙々と作業を続ける沙奈子と玲那の様子を見てると、ビデオ通話の画面から「ただいま~」って声が聞こえてきた。絵里奈が仕事から帰ってきたんだ。


「絵里奈~!、おかえり~!」


玲那がそう声を掛けた瞬間、「え!?」って慌てた感じで絵里奈が画面に入ってきた。『玲那の声』で出迎えられたからだった。


「玲那!、そっか、新しいアプリができたんだ!?」


「へっへ~ん、その通り!」


「ああ…、ああ…!。玲那だ…、玲那の声だ……!」


絵里奈にもちゃんと玲那の声として聞こえてるんだっていうことが、その様子から分かった。しかも玲那に抱き付いて、


「玲那…、玲那…!、玲那ぁ……!」


って何度も名前を呼んで、ポロポロと涙をこぼしてた。僕や沙奈子以上に、絵里奈はいろんなことに耐えてきたんだろうな。もちろん付き合いが長いっていうのもあるだろうけど、彼女にとって玲那は特別だから、ね。


「よしよし、いい子いい子……」


自分に縋りついて泣く絵里奈の頭を撫でながら、玲那はもう片方の手でキーボードを打ってた。


「ごめんなさい。取り乱しちゃって…」


しばらくしてやっと落ち着いた絵里奈がタオルで涙を拭いながらそう言った。そんな彼女に、僕と沙奈子は、「ううん」と揃って首を振ったんだ。だって、嬉しすぎて泣いてしまうのはぜんぜん恥ずかしいことだとは思わないから。




夕方。夕食を済ました後で山仁さんのところへ行く。大希くんと千早ちゃんに笑顔で迎えられて沙奈子を二人に任せた後、僕は二階へと上がった。


「こんばんは」と挨拶すると、みんな笑顔で「こんばんは」と返してくれた。先週は風邪で大変だったイチコさんもその後は何も問題なくて、波多野さんや田上たのうえさんも元気そうだった。


特に波多野さんについては、結局、痴漢に飛び蹴りを食らわしてしまった件について何の音沙汰もないってことで、まあ解決したってことでいいのかもという空気は漂ってた。実際、これ以降もそれについては何も起こらなかったんだけどね。


でもこの時点ではまだ『もしかしたら』っていう不安が完全には消えてなくて、まだ心配だったりもした。


田上さんの弟さんの件については、それこそ相手方が告訴とか本気で考えてるなら時間もかかるだろうから、まだまだ油断はできないっていう空気はあった。


そんな中、玲那が、星谷さんに用意してもらった新しいバージョンのアプリをみんなにお披露目ってことで、


「ところでカナってば、また痴漢とかぶっ飛ばしたいとか思う?」


とか言い出した。


って、せっかくのお披露目でその話題かよ!。


だけどまあ、当の波多野さんはまったく気にしてなかったみたいで、


「あ!、玲那さん!、それってひょっとして『玲那さんの声』ですか!?」


と、自分の話題そっちのけで反応してた。


「おう!、そうだよ。これが私の声だ!」


「おお~!」


さっきも聞いてた星谷さんと僕と絵里奈を除いて、みんなが感嘆の声を上げる。


やっぱり改めて聞いてみても機械音声っぽい不自然さはある。でも、それまでの完全な機械音声じゃなくて玲那自身の声を元にしてる分、違和感はずっと少ないんじゃないかな。


星谷さんが言った。


「人間はどうしても、情報伝達は目と耳に頼ってしまいます。テキストでのやり取りはメッセージアプリが浸透したことで慣れてきている面はありつつも、やはり親しい間柄であればこそ『声』が重要になってくると感じますね」



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