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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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五百七十五 大希編 「似て非なるもの」

二十六日。金曜日。今日も寒い。でも雪は新たに積もることはなく、ただただ寒い朝だった。


「沙奈子も絵里奈も気を付けて行ってきてね」


そう告げて家を出た僕も、寒いからって注意力が散漫にならないように気を付けようと思った。


そして何事もなく会社について仕事をこなし、気付けば定時になっていた。


「今から帰るよ」


と電話を入れてバス停に向かう途中、結人ゆうとくんのことが頭をよぎったりもした。


世間では相変わらず事件のニュースが後を絶たない。そうして事件が起こる度に結人くんが無茶をしないかというのが気になってしまった。


それと同時に、大希ひろきくんのことも思い出される。完全に、結人くんとの対比として連想される感じだった。


玲那も言ってたように、どうしてこんなに不公平なんだろうって思う。大希くんはあんなに愛されて、でも結人くんや沙奈子や玲那や千早ちゃんはあんなに苦しまないといけなかったんだろう。どういう親の下に生まれつくかというだけでこんなに違ってしまうなんて。


けれど、だからこそ僕は沙奈子のことも玲那のことも愛したい。生まれてくるかもしれない絵里奈との子供のことも愛してあげたい。少なくとも、大希くんと同じくらいには愛されている実感を与えてあげたい。


あれほど山仁やまひとさんにもイチコさんにも大切にされてる、星谷ひかりたにさんからも波多野さんからも田上たのうえさんからも愛されてる大希くんでさえ、『死にたい気持ちになることがある』ってこぼしたりすることがあるくらいなんだ。それくらい、世の中には当たり前みたいに辛いことがあるんだ。だったらせめて家の中でくらい、あったかい気持ちになれるようにしてあげようよ。のんびりさせてあげようよ。リラックスさせてあげようよ。


わざわざ家の中でまで試練なんか用意しなくても、一歩家を出たらそういうのはごろごろ転がってるんだよ。試練なんて、そういうので間に合うんじゃないかな。それを乗り越えていくことで、鍛えられるんじゃないかな。


少なくとも、沙奈子や千早ちゃんには、もう、『試練』なんて必要ないと思う。大希くんだって、お母さんを亡くすなんていうとんでもない試練が降りかかったじゃないか。それ以上、なんの試練が必要なんだよ。それはイチコさんもそうだし、波多野さんも田上さんもそうだと思う。


もう、本気で安らげる場所を作ってあげていいと思うんだ。


山仁さんの家に行くたびに、僕はそう感じずにはいられない。これが、それぞれの家だったらどんなにか幸せだったろうにね。


みんなの元気そうな顔を確認してホッとして、僕は沙奈子を連れてアパートに帰る。


また雪がちらついてた。寒さもかなり厳しいし、もしこのまま降るようなら積もったりするのかもしれないな。と思いながら二人で歩いたのだった。




二十七日。土曜日。昨日降り出した雪は結局大したことはなかったみたいで、ほとんど積もってなかった。自動車の屋根とかにうっすらと乗ってる程度で。


寒いからどうしようかなと思ったけど、やっぱり先週決めたように、鈴虫寺近くの喫茶店までみんなで散歩することにした。お昼はやっぱり苔寺近くのお茶屋さんでとろろそばだけど。


それで気付いたんだけど、沙奈子、とろろも好きみたいだった。何と言うか、オムライスが好きっていう子供らしい一面もありつつも、やっぱり味覚が渋いなあと思ったりもする。


それはさて置き、けっこう歩くことになるから自転車でもいいかなと思いつつも、絵里奈の自転車がないし、それにこの寒い中だと自転車で風に当たるのは辛い。だったら歩いたほうが体が温まっていい感じになると思う。


「やほ~、バス停に着いたよ~」


玲那からのメッセージが届いて、僕と沙奈子もアパートを出た。


バス停近くで合流して、まずは苔寺の方に向かって歩く。いつもゆっくり歩くから往復で一時間以上の道のりだ。


でも、沙奈子はそれで音を上げたりしない。元々我慢強い子だからっていうのもあるかもしれないにしても、今はもう、正直な気持ちもちゃんと言ってくれるようになったから、嫌だったら嫌だって言ってくれる。だけどむしろ沙奈子の方が楽しそうにどんどん歩く感じだった。四人でこうして散歩できるっていうのが嬉しいんだろうな。


散歩しながらも、僕たちは結人くんのことを話し合ったりした。


「結人くんのは、やっぱりカナのとは違うよね」


信号待ちで立ち止まったところで、玲那が言った。玲那の場合はスマホを操作しないといけないからね。歩きながらだと危ないし。


それはさて置き、言いたいことはすぐに分かった。


「波多野さんが痴漢に飛び蹴りしてしまったのは、あくまでたまたま見てしまっただけだし、警察に突き出すとか逮捕させるとかじゃなくて、あくまで頭に血が上って自分でって感じだったみたいだからね」


僕が言うと絵里奈が続いた。


「そうね。その点、結人くんのは、騒ぎになるのを目的にしてるっていう一面もあるみたいだから」


更に玲那が補足する。


「似て非なるものって感じだよね」


その通りって気がする。波多野さんと結人くんのやったことは、似てるようで違うんだ。


「それに波多野さんはもう、それがよくないことだっていうのを自分で分かってるし。分かってても目の前にすると抑えが効かないって感じなんだろうな」


「その気持ちはむっちゃ分かるわ~」


信号待ちの度にそうやって話したりしながらも、僕たちは苔寺近くのお茶屋さんに到着してた。時間は少し早いけど、ここで昼食にする。みんなでとろろそばをいただいて、少し寛いで、それから今度はまたあの喫茶店へと向かった。


寒いからかお客さんもそんなにたくさんいなくて、ゆっくり寛ぐことができた。甘すぎるものはそんなに好きじゃない沙奈子も、ここのケーキは美味しく食べられるらしい。


「沙奈子、美味しい?」


僕がそう聞くと、ふわっと柔らかい表情になって「うん」と頷いてくれた。


「紅茶も美味しいよ」


玲那が満足気に言う。


「ホントに好いところ見つけましたね」


絵里奈も嬉しそうだった。


色々と気を付けないといけない部分はあるけど、こうして四人で一緒にいられる時間を作れるのは本当にありがたいと思う。そのための場所がこうして見付かるっていうのもありがたい。


他にももっとたくさん見付けられればいろいろバリエーションも豊富になるかもしれないけど、僕たちは四人とも、同じパターンの繰り返しっていうのは嫌いじゃない。って言うかそっちの方が好きだから。


玲那は僕たちの中では割と賑やかなのが好きみたいに思えても、実は『気が合う人となら』っていう前提条件があるからね。だから本音では新しいところとか新しいことっていうのは苦手だったりするんだよね。



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