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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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五百六十九 大希編 「当然の報い」

結局、いいアイデアが出ることもなく時間だけが過ぎて、僕たちは寝ることになった。


ただ、鷲崎わしざきさん自身、いい解決方法が見付かることを期待してたかと言ったらそうじゃない気もする。自分が抱えているものを吐き出したかっただけなんだろうな。


とは言え、結人ゆうとくんのことも放っておいていいのかどうか……。


正直、話を聞いてるだけでも結人くんが単なる正義感から犯罪を暴くということをしてる印象はなかった。それよりは、絵里奈が言ったように香保理かほりさんのリストカットに近い行動なんじゃないかっていうことの方がピンときた。わざと危険なことをして、自分が生きている実感を得るみたいな。


だからなおのこと、慎重に対応しないと取り返しのつかないことになる気がしてしまった。


強引にやめさせても問題は解決しない。むしろかえって危険な何かに変わってしまう。そんな予感があったんだ。


そういうことも気になってその日はなかなか寝付けなかった。それは沙奈子も同じようだった。僕の膝で人形のドレスを作りながらも話は聞いていたんだろうな。


「沙奈子…、どう思う……?」


もちろん彼女に答えられると思ったわけじゃない。つい何となくそう聞いてしまっただけだ。そして沙奈子も、「分からない……」と呟くように応えた。当然だと思った。


「だよね。ごめん」


無理難題を問い掛けてしまったことを僕は申し訳なく思った。でも沙奈子はそれには首を振った。


「ううん。お父さんは悪くない」


そう言った後、沙奈子は続けて思いがけないことを言い出した。


「結人くんも悪くないと思う…。悪いのは、良くないことをする人たち…。そういう人がいなかったら結人くんもそんなことしないと思う……」


って。


「…あ、そうだ…。そうだね。沙奈子の言うとおりだ」


確かに犯罪をするのがいなかったら結人くんが暴く必要もなくなる。それが難しいから困るのは確かでも、沙奈子のような子供でもそう思うことを大人ができないっていうのが情けなかった。


ホントに、どうして犯罪なんかするんだろうな……。


僕の兄が沙奈子を捨てていったのも本来なら犯罪だ。それ以前に火の点いた煙草とかを押し付けたり育児放棄も犯罪だ。玲那の実の両親がしたことも犯罪だ。それが玲那の事件を招いた。波多野さんのお兄さんのしたことも当然そうだし、田上たのうえさんの弟さんがしたことも名誉棄損とかにも該当する犯罪なんだ。


自分のやってること、やろうとしてることがどういうことなのかっていうのを改めて省みることが必要だと強く思ったのだった。




二十一日。日曜日。ちょっと寝覚めが悪かったけれど、僕たちが深刻になっても問題が解決するわけじゃないから、あまり気にしすぎないようには心掛けた。


今日も千早ちはやちゃんたちが料理を作りに来ることになってる。


朝、いつものように家族揃って朝食にして仕事に行く絵里奈を見送って、掃除して洗濯して午前の勉強をしてってしてると、メッセージアプリの方に波多野さんからのメッセージが入った。


『イチコ完全復活。今夜は会合あるよ』


だって。


「お~、そりゃよかった!」


玲那の方にも届いてたから、彼女が返信する。


ちなみにイチコさんは携帯を持ってない。興味ないんだって。イチコさん曰く、


『携帯持ってないと友達になれない相手なら要らない』


ってことだった。それは僕も分かる気がする。僕もただ単に連絡用に持ち歩いてるだけで、無ければ無いで何とかなるとしか思ってない。


イチコさんが携帯を持ってないことは、当然、星谷ひかりたにさんも波多野さんも田上たのうえさんも承知してて、その上でイチコさんと友達だった。しかも波多野さんの場合は、携帯代も山仁やまひとさんからもらうお小遣いの一部を充てていて、携帯代も考慮したお小遣いの額になってるから、携帯持つのをやめようとした時期もあったらしい。いくらなんでも山仁さんに申し訳ないからって。


だけど山仁さんは、敢えてそれを断ったそうだった。


「これは大人の側の責任なんだ。香苗ちゃんは気にしなくていい」


って。でもそれと同時に、


「だけど香苗ちゃんが大人になったら今度は自分がその責任を負う側になる。それを忘れないでいてくれればこのことも十分に意味がある」


とも言っていたそうだ。そこでちゃんと、『いずれ君の番が回ってくる』と伝える辺りはさすがだなと思ってしまった。そして波多野さんは、自分の番が回ってきた時にそれを果たそうと思ってるんだって。


立派だよ。その辺の駄目な大人なんかよりずっと立派だと思う。本当に僕の兄辺りに爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいよ。だけど、兄は両親に『次は自分の番だ』って納得できるようにしてもらえなかったんだろうな。それどころか、相手を自分に都合よく操ろうとする部分こそを学び取ってしまって、そして周りの人を次々と不幸にしていった。沙奈子のことも。


それは少なくとも、僕と兄の両親がすでにその種を蒔いてたんだな。両親がやってたことは、他人からは『教育熱心で子供のことをよく見てる親』と錯覚させるようなことだったけど、実際には兄を人間扱いしてなかった。ロボットのように自分たちの思い通りに操ることしか考えてなかった。犯罪ではなかったかもしれないけど、他人を蔑ろにするという意味では、犯罪と変わらないことをしてたんだって分かる。


そういう意味では、『法律には触れないけど犯罪的な行為』っていうのもあるんだって実感する。


なんて思うと、ふと考えてしまった。結人ゆうとくんは犯罪を暴こうとしてたけど、『法律には触れないけど犯罪的な行為』というものについてはどう考えてるんだろう。そういうのも彼にとっては犯罪に当たるのかな。それでもし、そういうのを暴き立てようとして無茶なことをしたら、それは、法律上は『犯罪をしてない人に犯罪行為を行った』という形になる可能性もあるんじゃないかな。


それはマズイ。それはマズイよ。


ああでも、『嫌なことをされた仕返し』として犯罪行為とかしてしまうのって、ほとんどそんな感じなのかもしれない。


『自分のプレゼントを雑に扱われたとか捨てられたとかで逆恨みしてストーカーになって刃物で刺した』なんていうのも、確かにプレゼントを雑に扱ったりっていうのは褒められたことじゃないから腹が立ったりもするだろうけど、だからって刃物で刺していいわけじゃない。だけど犯人にしてみれば『当然の報い』ってことなんだろうな。


結人くんのやってることを、『犯罪を暴いてるんならいいことじゃないか』って称賛する人もいるかもしれなくても、やっぱりそれはそのままにしていていいことじゃないと僕は思う。


でないと、本当に取り返しのつかないことになってしまう気がするんだ。



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