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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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五百六十七 大希編 「美談扱い」

二十日。土曜日。今日はまた、僕たちはいつもの人形のギャラリーに来ていた。先週の展示会で展示されていた人形が改めてギャラリーの方で展示されるからというのもあった。もちろんそれは、沙奈子と絵里奈のリクエストだ。


僕と絵里奈は喫茶スペースの方で待つ。あんまりしょっちゅう来てるものだから、喫茶スペースの従業員の人とも顔なじみになってしまった。


「いつものでよろしいですか?」


と聞かれる。


「はい、お願いします」


と僕も応えた。


それくらい、決まったパターンを繰り返してるだけなんだけど、僕はむしろその方が楽だった。新しいことをしたり知らない場所に行くのは苦手だ。


一方、星谷ひかりたにさんたちは、昨日言ってたとおりにイチコさんを除いてあの旅館に行ってた。午前中は、高校の方は『土曜授業』があったらしいんだけど、お昼前にはそれも終わって、大希ひろきくんと千早ちはやちゃんを連れて行って、山仁やまひとさんとイチコさんにゆっくりしてもらうという意味もあった。


あと、イチコさんの熱は結局、インフルエンザじゃなかったって。診断としては『ただの風邪』ということだった。もう熱もかなり下がって、食欲も出てきたらしい。念のため、今日も会合はお休みするけど、もう心配要らないって。


ということを、波多野さんがメッセージアプリで知らせてくれた。


「大したことなくて良かった」


ヘッドホンからは玲那の『声』が聞こえてくる。と言ってもまだ機械音声の方だけどね。玲那自身の『声』を使ったものも近々公開してくれるって言ってた。


それはさて置き、玲那の言うとおり、イチコさんが何か大きな病気とかでなくて良かったと僕も胸を撫で下ろしてた。インフルエンザの簡易検査で判明しなかったって聞いた時には何か別の良くない病気なのかとか考えてしまったけど、そうじゃなかったんだな。回復したんならそれでいい。


でもこれでもう三日、会合がなかったことになる。実際に集まることはなくてもメッセージアプリでやり取りはできるから様子はある程度分かっても、やっぱり直接顔を見ないというのは何か違和感があるな。あれ自体が僕にとっては日常になってたんだっていうのを改めて実感する。


「それにしてもイチコもやっぱり人間だったんだねえ」


って玲那。


「あのなあ。それはさすがに失礼だと思うよ」


「でもさ、ピカとは別方向でイチコも常人離れしてると思うよ。あの動じなさ」


確かにとても高校生とは思えないくらいに達観してるし落ち着きすぎだとは思うけどさ。


「いや、常人離れしてるのは玲那もだと思うけど…」


というのは、僕の正直な印象。スマホをものすごい速さで操作してメッセージを打ち込む様子は、人間業とは思えないよ。


「そうかなあ。このくらいできるのは他にもいるよ。あっきーもそうだし、美穂もそんなに変わらないかな」


って、秋嶋あきしまさんや木咲きざきさんも!?。


ああでも、秋嶋さんたちとかだと、いわゆる、生まれた時から電子機器に囲まれて育ったそれこそ『デジタルネイティブ世代』だろうから、親和性が高いのかなあ。僕も一応はデジタルネイティブ世代には含まれるんだろうけど、あまりゲームとかにも触れてこなかったし、あんまり実感はないかな。


なんてことをやり取りしてるうちに沙奈子と絵里奈も喫茶スペースの方に来て、四人で軽く昼食にした。


それからも家族で喫茶スペースで寛いだ。そして来週は、鈴虫寺近くのあの喫茶店にということで予定も決まった。




ゆっくりしてから僕たちはまた、それぞれバスに乗って部屋に戻る。そしてビデオ通話で四人揃って、夕方までそれぞれの用事を済ませた。沙奈子は午後の勉強と人形のドレス作り。絵里奈も人形のドレス作り。玲那はフリマサイトに出品した品物の管理で、今日、沙奈子が作ったドレスを渡したのをさっそく出品していた。


僕は、そんな三人の様子を見ながらうつらうつらと。


夕方になって一旦作業は中断。沙奈子と一緒に夕食を作る。今日はカルボナーラだった。すると絵里奈もカルボナーラを作って四人で食べた。


お風呂はまだ結局、沙奈子と一緒に入ってる。体の変化を恥ずかしがってたのはもうすっかり収まってしまったみたいで、それ以前と同じように平然とするようになってしまった。正直、これでよかったのだろうかと思わなくもない。ちゃんとそういうのを意識し始めた時に別々に入るようにした方がと考えてしまったりしつつも、沙奈子が一緒に入りたがる以上はこのままの方がいいのかなとも思ったり。


お風呂の後でまた寛いでると、鷲崎わしざきさんがビデオ通話に参加してきた。


「こんばんは。お邪魔します」


と恐縮する鷲崎さんに、


「いえいえ、ぜんぜんオッケーですよ~」


と玲那。このやり取りもすっかり馴染んだなあ。


だけど、今日の鷲崎さんは少し様子が違ってるようにも見えた。なんか、気になってることでもあるみたいな。


それに玲那も気付いたみたいだった。


「どしたの?、織姫ちゃ~ん。暗いよ~?。言いたいことがあるんなら言っちゃえ言っちゃえ!」


そう言われて、鷲崎さんはハッとした顔になった。そして、


「皆さんを見てると、私はぜんぜんダメだな~って思ってしまって……」


と顔を伏せた。


だけど玲那は言う。


「織姫ちゃ~ん、私たちに対してはそういうのは無しで良いって言ったよね~?。私たちもダメダメなんだからさ~。もっとぶっちゃけようよ~。お父さんに迫ってた時みたいにグイグイとさ~」


って。すると鷲崎さんの顔がぱあっと赤くなり、それから何かホッとしたみたいに穏やかな顔になった。


「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」


と言いながら姿勢を正し、話し始めた。


「実は、以前にもお話した、結人ゆうとが誘拐犯の自動車に撥ねられた事件のことで…」


それは、結人くんが五年生になる直前の頃に、同じ学校の女子生徒を誘拐しようとした犯人の自動車に撥ねられたことで事件が明るみに出て女の子が助かったっていう事件のことだった。以前にも少しだけ話はしてくれてたんだけど、それがどうかしたのかな…?。


鷲崎さんが続ける。


「あの事故、どうやら結人がわざと犯人の自動車に突っ込んだみたいなんです」


はい…?。えぇ!?。


「わざと突っ込んだって、自分からぶつかりに行ったってこと?」


玲那が慌てた感じで尋ねる。


「はい、そういうことですね」


と応える鷲崎さんに今度は絵里奈が尋ねた。


「どうしてそんな無茶を…?」


それに対して鷲崎さんは、顔を伏せて重苦しい感じで語ったのだった。


「事件当時から結人がわざと自動車に突っ込んだっていう話はあったんです。だから一時、結人が危険を顧みず女の子を誘拐犯から救い出したっていう美談にしようって感じでマスコミが話を聞きに来たことはありました。だけど私はそれが嫌で信じなかったんです」





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