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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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五百五十三 大希編 「ダブルヘッダー」

二日。今日はみんなと新年カラオケパーティーだ。でもさすがに四時間もはきついから、僕と絵里奈と沙奈子は途中からの参加にしてもらった。玲那はそのまま合流して、絵里奈はアパートに来た。


「ただいま」


玄関を開けてそう言った絵里奈の顔は、外が寒かったからか少し赤くなってた。


「おかえり」


「おかえりなさい」


僕と沙奈子が出迎えて、三人で抱き合う。この瞬間がすごくホッとする。本当は玲那も一緒にいてくれるといいんだけど、彼女は彼女で楽しんでるはずだから今はこれで我慢しよう。


一緒にコタツに入って、人形のドレス作りをする沙奈子を、僕と絵里奈で見守った。あたたかくて穏やかで、これだけでもう十分だった。大きな家も広い庭も豪華な食事も要らない。こうして家族が傍にいてくれたらいい。


それを改めて実感する。


ゆったりとした時間なのに、過ぎてみればあっという間だったけど、お昼前になって玲那からも『早くおいでよ♪』ってメッセージも届いたし、僕たちもカラオケボックスへと向かった。


「きゃーっ!」


「わーっ!」


「うきゃきゃきゃきゃ♡」


「うお~っ!」


パーティーが始まってからもう既に一時間以上経ってるはずなのに、波多野さんと田上たのうえさんと千早ちはやちゃんと大希ひろきくんと玲那は、ものすごく元気にはしゃいでた。


「いらっしゃ~い!!」


みんなが笑顔で迎え入れてくれて、僕たちも当たり前みたいに溶け込める。それでも、星谷ひかりたにさんと一緒に観客に徹する感じだけれど。


でもすぐに、お昼としてピザや焼きそばやラーメンが運ばれてきて、お昼休憩ってことになった。


みんなすごく楽しそうで、僕はそれを見てるだけでも自分が満たされるのを感じた。波多野さんも田上さんも玲那も、本当に楽しそうだ。


ワイワイと賑やかなお昼も終わって、パーティーは後半戦へと突入する。それでも、波多野さん、田上さん、千早ちゃん、大希くん、玲那のテンションは変わらないどころかさらにヒートアップしてる感じだった。このエネルギーは、いったい、どこから来るんだろう。食べてるものはそんなに変わらなかった気がするのに。


その五人と比べると、イチコさんは少し控えめで、星谷さんは完全に僕や沙奈子や絵里奈と同じだった。けれど、楽しんでるのは分かる。特に大希くんを見てるのが嬉しいんだっていうのは、知らない人が見ても分かりそうだった。


激しいノリじゃなくても、大希くんが歌ってる時には手拍子もするし。


そんな空気を一時間くらい楽しんだ後、イチコさんと星谷さんが、


「今日は参加してくれてありがとうございます」


「もしお疲れでしたら、どうぞ切り上げてください」


と言ってくれたので、お言葉に甘えてアパートに帰ることにした。正直、もう十分に堪能したからね。


「ばいば~い!。まったね~♡」


明るく見送ってもらって、僕と沙奈子と絵里奈はカラオケボックスを後にした。本当にすごいエネルギーだなあって余韻だった。


玲那はこの後でまた、秋嶋あきしまさんたちとの新年カラオケパーティーに突入するんだもんな。信じられないバイタリティーだよ。


ただそれも、そうやっていろいろなものを発散したいっていうのもあるんだろうけどね。僕たちはそういう形で発散するんじゃなくて、静かに寛ぐことで癒される感じだけど、発散の仕方が違うだけなんだろうな。


アパートに帰ってまた三人の時間に浸っているところに、玲那からは次々とメッセージが届く。そこには、波多野さんの後ろで踊ってる写真とか、田上さんと肩を組んで笑ってる写真とか、千早ちゃんの頭に顎を乗せてピースしてる写真とか、大希くんを抱き上げてる写真とか、イチコさんと頬を寄せてる写真とか、星谷さんにキスを迫ってるみたいな写真とか、どれもこれも本当に楽しそうな写真ばかりが添えられていた。


僕や沙奈子や絵里奈じゃ味合わせてあげられない楽しみ方を、みんなは玲那に味合わせてくれてるんだな。それだけでもう感謝の気持ちが溢れてくる。


それから引き続いて、今度は秋嶋さんたちとの写真が届く。こっちはさすがに頬を寄せたりキスしようとしたりって感じの写真じゃないけど、それでもすごく楽しそうなのは伝わってきた。


玲那。本当に幸せそうだな……。


それは、あの子が自分で掴みとった幸せなんだと思う。みんなに支えられながらも、あの子自身が努力して頑張って乗り越えてきたからこその幸せなんだ。これからもっともっと、あの子には幸せになってもらわなきゃ、きっと割に合わない。それくらいの苦しみや痛みや悲しみの中にあの子はいたんだもんな。


結婚とかそういう形での幸せももちろん手に入れてほしいとは思う。だけど幸せってそれだけじゃないから。


なんて、絵里奈と結婚して幸せを噛み締めてる僕が言うことじゃないかな。


今だって、もし沙奈子がいなかったら、きっと求め合ってしまってただろうな。そういう気持ちは確かにある。他の人よりはずっと弱くて抑えることができてしまう程度のものかも知れなくても、『絵里奈が欲しい』って気持ちは確かに自分の中にあるっていうのも自覚してるんだ。本当に不思議だな。絵里奈以外の誰にもそんな気持ちにならないのに。その辺りは、僕はいまだに他人が怖いんだろうなっていうのも思い知らされるよ。でも、それで困ることもないけどね。


四時。そろそろ秋嶋さんたちとのパーティーもお開きの時間だ。と思ったらそこに『終わったよ~』とメッセージが届く。


「じゃあ、私もそろそろ行きますね」


絵里奈が立ち上がって、身支度を整えて、玲那を迎えに出た。


「いってらっしゃい」


それを、僕と沙奈子が見送る。もう、当たり前みたいになった光景。まだ二年以上これを繰り返さないといけないのは寂しくても、だけどいつかは終わる。僕たちはその時が来るまで、淡々とそれを繰り返すだけだ。それは僕たちの得意なことだから。


絵里奈と合流したことを知らせるメッセージが届き、それからさらに向こうの部屋についたことを知らせるメッセージが届き、ようやく今日が終わった気がしてホッとした。


「明日と明後日は、あの旅館でゆっくりしましょうね」


ビデオ通話を繋げると、絵里奈がそう言ってきた。明日は現地集合だ。


玲那はと言うと、さすがに疲れたのか、床に寝ころんでいた。


「先にお風呂に入っちゃって」


と絵里奈に言われて手をひらひらさせて返事して、のそ~っと起き上がってお風呂場の方へと消えた。


「もう、玲那ってば、はしゃぎすぎ」


絵里奈が苦笑いを浮かべながらそう言ってきた。でもその顔はとても嬉しそうにも見えた。そしてそれは、僕も沙奈子も同じだった。結局、玲那に楽しんでもらいたかったっていうのを改めて感じたのだった。



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