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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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五百五十二 大希編 「あけましておめでとう」

「あけましておめでと~!」


朝、ビデオ通話を繋いだ途端、玲那の笑顔が画面いっぱいに映し出された。それがしたくて構えてたらしい。


「あけましておめでとう」


「おめでとう」


「おめでとうございます」


僕と沙奈子と絵里奈も、新年の挨拶を交わす。


と言っても、することはいつもと変わらない。朝食を食べて掃除と洗濯をして、沙奈子の午前の勉強をして。


沙奈子が勉強をしてる間に、絵里奈と玲那はこっちに向かってた。初詣に行くためだ。


神様とかに対してはいろいろ思うところもあるけれど、これは、お願いをしに行くというよりは、当たり前みたいに行われてる習慣について、沙奈子にも知っててほしいからっていうのもあった。いずれこの子が大きくなって他の誰かと一緒に行くことになった時に恥をかいたら可哀想だなっていうのもある。だから、テレビとかで紹介されてた正式なお参りの作法を実地でやっておこうかなっていうのもあるんだ。


『バス停に着いたよ~』


玲那からのメッセージに、僕たちもアパートを出る。バス停近くで合流して、神社に向かって歩き出した。


ゆっくり歩いても十分と掛からないそこは、小さな神社で、参拝客もチラホラって感じのところだった。だから逆にゆっくりと作法を確認しながら参るには好ましいと感じる。


「え…と、まず最初は、と」


スマホに、参拝の作法を記したページを開いて確認した。


「鳥居は家で言うと玄関みたいなところだから、会釈をするのがいいんだって」


というわけで、鳥居の前で軽く会釈をする。


「それから、参道の真ん中は本来は神様の通る道だから真ん中を外して歩くのがいい。か」


参道の端を通って手水のところに来て、またスマホをチェックする。僕が読み上げるのを絵里奈と玲那がまずやってみて、それから僕と沙奈子が、二人に見てもらいながらやってみた。


右手で柄杓を持って水を汲んで左手にかけて、それから左手に持ち替えて右手にかけて、また右手に持ち替えて左の掌に水を受けてそれで口を漱いで、その左手にまた水をかけて、最後に柄杓を立てる感じで残った水で柄を清めて、柄杓を伏せて元の位置に戻す。


全員のお浄めが終わって拝殿の前に行って賽銭箱のところで会釈をしてから賽銭を入れて鈴を鳴らして、二礼二拍手一礼ということで二回深くお辞儀をして二回拍手をして、それからまた深くお辞儀をして、最後に会釈をして参拝を終えた。


鳥居を出たところでまた振り返って会釈をすると、四人でホッとした顔になった。


「正式な作法って、親から教わったことなかったですね」


絵里奈が言ったことが、今回、こうやって初詣に来ようと思った一番の理由だった。当たり前みたいに恒例行事として初詣とか行くのに、僕たちの両親は誰も正式な作法とか教えてくれなかったし、そもそも知らないんだろうなっていうのを改めて実感した。それで礼儀云々を言うんだから、言われた方は『お前が言うな』って気持ちになってしまうよね。


僕も知らなかったけど、こうして自分で調べてでも沙奈子に教えてあげられれば、この子が行くときになって『正式な作法も知らないのか?』って馬鹿にされずに済むかもしれない。


もちろん、実際にはほとんど誰もそこまで気にしてないとは思う。だから僕たちの両親だって教えてくれなかったし知らなかったんだろう。だけどやっぱり、礼儀作法を口にするのなら知っておいた方がいいとも思った。僕は沙奈子に対して礼儀作法を口煩く言うつもりはないけど、知ってて損はないんじゃないかな。


これは、神様とかに対する僕たちの感情とかとは切り離した上でのことだ。思うことがあっても、普段からケンカ腰であれこれする必要はないし。


それに何より、神様云々の話は、自分の感情と自分の中で折り合いをつけるためのただの詭弁みたいなものだから、本気で恨んでるわけでもない。神様とかの所為にしてキレてしまいそうになる自分を抑えるためのものって言ったらいいのかな。


存在を立証できないものを言い訳にして他人を傷付けるような真似がどれほど無意味か、みっともないか、情けないことなのかっていうのを意識するためのって感じかもしれない。僕はそういうことをしたくないから。僕のそんな姿を沙奈子に見せたくないから。


だからこれはこれ、それはそれってことで、こうして初詣にも来るんだ。もっとも、祈ったのは『悲しんだり苦しんだりする人が少しでも減りますように』ってことだけど。さすがに自分のことを願うのはムシが良すぎると思ったし。


初詣を終えて、僕たちは散歩がてら歩いてファミレスまで来て、そこで昼食にした。お正月ってこともあって何となく店内もお正月モードなのかなって印象もありつつ、別にそれには拘らなかった。四人でオムライスを頼んでそれを食べただけだった。


お店もそんなに混んでなかったし、ちょっとゆっくりさせてもらった。もし混んでたらまた当てもなく散歩しようかなとも思ってたけど。


絵里奈が言う。


「もうすぐあれから一年なんですね……」


その言い方にすぐにピンときた。玲那の事件のことだって。


それに対して玲那は、困ったような笑顔を浮かべて、


『ホント、すまんこってす』


とメッセージを送ってきた。


だけど決して、絵里奈が玲那を責めたいわけじゃないっていうのは、玲那自身も僕も沙奈子も分かってた。ただ『そんなこともあったね』って言いたいだけなんだ。そもそも玲那のことを一番心配して悲しんで苦しんでたのは絵里奈だし。だって、彼女にとっては元々家族以上の存在だったから。僕や沙奈子以上に、結びつきの強い存在だったから。


そういう意味では、自分自身の一部みたいなものなのかな。


玲那が改めてメッセージを送ってくる。


『この一年を振り返ってみて、自分がどれだけたくさんの人に守られてるか、生かされてるかっていうのをしみじみ感じるよ。


昔の自分から比べたら、それこそ異世界に来たみたいに違ってる。


あの頃は、自分の周りに誰も味方がいなくてさ。


ひーちゃんはいてくれたけど、彼女もまだ中学生だったし、私を守るとかそこまでは無理だったと思う。


私にとっては、絵里奈と出逢ったことが一番のきっかけだったのかな。


絵里奈と出会ってから、ものすごく変わったんだ。


絵里奈が香保理かほりにも出逢わせてくれたし、香保理と出逢って私が変わったことで美穂たちとも出逢えたし、お父さんや沙奈子ちゃんとも出逢えたし、みんなが私を変えてくれたんだ。


辛いこともあるけど、私、やっぱり生まれてきて良かったって思うよ。


みんなと出逢えて本当に良かった』


そのメッセージに、僕は応えてた。


「それは、僕も、沙奈子も、絵里奈も同じだよ。玲那と出逢えて、みんなと出逢えて、僕たちは変わったし救われたんだ。こんな弱くてダメダメな僕たちでも幸せに生きられるってことを教えてもらったんだ。本当に感謝しかないよ」



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