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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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五百四十八 大希編 「年末最後の大笑い」

人形ギャラリーを堪能してきた沙奈子と絵里奈が喫茶スペースにやってきて、軽くお昼にする。


それから今後のスケジュールの確認だ。


「明日は洋裁専門店で大晦日セールがあります。ここで大量に仕入れを行って、来年は大台突破、できれば倍増を目指します」


人形の服のフリマサイトでの販売額の倍増を目指すということか。つまりは二百万円を目指すっていうことだな。


金額だけを聞けばかなりのものに思えるけど、単純に『家業』として考えると、沙奈子と絵里奈と玲那の三人で働いて年間売り上げ二百万円だとすれば、決してそんなにすごいことじゃない。むしろ『商売』としてはほぼ成り立たないレベルでしかない。それで浮かれてはいられないんだって、気を引き締めないといけないな。


「元旦は、初詣です。これは、いたるさんのアパートから徒歩で行けるところに行きます。小さな神社で人も少ないのでいいと思います」


別に僕は行かなくてもいいかなと思ってるんだけど、まあ、せっかくだからね。


「二日は、星谷ひかりたにさん主催の新春カラオケパーティーです。午前十時から午後二時を予定してますので昼食込みです」


四時間カラオケか…。まあ、途中、昼食休みとか休憩も何度か挟むとは言ってたな。そこに玲那からもメッセージが。


『は~い、私はその日、午後二時から、あっき~達と新春カラオケパーティーのまたまたダブルヘッダーで~す』


『あっき~』というのは、秋嶋あきしまさんのことらしい。ますます親密度が上がってるってことなのかな。しかし、玲那はそこからさらに二時間ってことだろう?。本当に大丈夫なんだろうか……。タフだなあ。


「三日と四日は、旅館から招待されてるので、ゆっくりしたいと思います」


そう、実は、星谷ひかりたにさんを紹介してくれたってことで、女将さんが特別に招待してくれたんだ。星谷さんが入れた予約と、星谷さんの紹介で稼働率が劇的に上がって、旅館の経営が一気に上向いたんだって。そのお礼も兼ねてってことだった。でないとさすがに自分でお金を出しての宿泊までは厳しかったからね。


『お~』って玲那が拍手の真似をすると、沙奈子も小さく拍手の真似をしてた。静かな喫茶スペースの中で派手に拍手はできないもんな。


それにしても、まさかこんな形であの旅館の手助けをすることになるとは思ってなかった。でもそれも、あの旅館の仲居の木咲美穂きさきみほさんが、玲那の事件があっても友達でいてくれてたこととか、玲那の事件のことを知ってても何も言わずにいてくれる女将さんの人柄もあるんだと思う。それを星谷さんが知って、『これは使える』と、ちょっと内緒の会談とかをしたいっていう人たちにあの旅館を紹介してくれたかららしいし。


もしこれが、そういうお客が来たことをネットに上げるようなスタッフのいる旅館だったら、星谷さんは決してそんなことしなかったんじゃないかな。


誠実だけどあまり商売上手ってわけじゃなかった人たちと、敢えてひっそりとした隠れ家的な場所を求めてたお客さんたちとが引き合わされたことでこうなったんだって感じる。


もっとも、これで星谷さんも大変なメリットを得てるんだろうけど。


大希ひろきくんとの甘い一時ひとときっていうね。


しかもそれで波多野さんと田上たのうえさんも癒すことができるっていうのなら、それこそ『メリットしかない』って感じなんだろうな。そういえば今日も行ってるんだった。


すると玲那から、


『今頃、また鼻血ふいてなきゃいいけど』ってメッセージが。


「いや、さすがにもうそれなりに慣れてきてるんじゃないかな」


と、僕は返したのだった。




なんてことをしてるうちに時間も過ぎてアパートに帰ることになって、夕食の後に山仁さんのところに行ったら、


「いや~、今日もピカってば派手に鼻血をふきましてな」


って波多野さんがニヤニヤ笑いながら嬉しそうに。


「……」


星谷さんは耳まで真っ赤にして俯いてた。なかなか慣れないみたいだなあ。


「ピカって、ホント意外にウブなんだね~。ヒロ坊にお風呂で後ろから抱き着かれて、その瞬間にダバ~って。まあ、それもカナの差し金だけど」


とは、田上さん。


そうか、そんなことが……。


ビデオ通話の画面の中では、玲那がもうキーボードを叩くこともできないほどにひっくり返って膝を叩いて笑ってた。昼間、『また鼻血ふいてなきゃいいけど』とか言ってたのがその通りになって、ツボにはまってしまったらしい。


「ヒィ~ッ!、ヒィ~ッ!」って、実際には空気が漏れるだけの音だけど間違いなく笑い声って分かる声も聞こえてくる。


「もう、玲那!。笑いすぎ!」


って絵里奈に叱られるくらいに。でも、ここしばらくいろいろあったから、こんな風にお腹がよじれるくらいに笑えるっていうのは本当にありがたいことかも。


星谷さんには申し訳ないけどさ。


でも星谷さんも、そうやって笑われること自体は嫌じゃないんだって。と言うか、そんなことを気にする余裕もないくらい、大希くんのことで頭が一杯になってしまうらしい。彼女の顔が真っ赤になってる時はそれだって。


しかし、いくら波多野さんに、


『ピカお姉ちゃんが喜ぶから、後ろからぎゅ~ってしてあげな』


って耳打ちされたからって、それを躊躇いなく実行に移すとか、大希くんも罪作りな男の子だなあ。


でもその後で、


「こら~っ!、ヒロ!。やりすぎ!!」


と、千早ちはやちゃんに怒られたらしいけどね。


千早ちゃんは、どうやら大希くんのことを好きという以上に星谷さんのことが好きらしい。お姉さんとして。憧れの存在として。そんな星谷さんを困らせたりっていうのは、彼女的にはNGみたいだ。


もっとも、当の星谷さん自身はぜんぜん困ってないかもしれないけど。


むしろ、こうやってみんなが楽しんでくれるならとさえ思ってるって。


以前、こんなことも言ってた。


『昔の私は、大きな口をあけて笑うことを馬鹿にしていました。不様で醜くて知性を感じさせないって……。


だけど、違うんですよね。そんな風に笑える動物というのは、人間くらいなものなんです。笑うことこそが『人間らしさ』の一つなんだと今では思います。


私は、みなさんに笑っていてほしい。みなさんの笑顔を見るのが嬉しいんです。私はまだ、そんな風に笑うことはできないのかもしれません。心のどこかでリミッターを掛けてしまっていて、お腹の底からみっともないくらいに笑うということができないのかもしれません。


でも、それでもいい。みなさんが笑ってくださるのなら私はそれで十分なんです。みなさんが笑っていられる状況こそが、彼にとっても幸せなはずですから。


みなさんの笑顔の中で、彼が幸せそうに笑っていてくれるのが、私の一番の幸せなのです』



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