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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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五百四十五 大希編 「複雑な心境」

『もうすぐ終わるよ~』


玲那から、秋嶋さんたちと一緒に写った写真と共にそんなメッセージが届いて、絵里奈が用意を始めた。


もう既に軽く夕食も済ませて、三人でお風呂に入って、ゆっくりと一時ひとときを満喫したからね。


「それじゃあ、また土曜日に」


そう言って僕と絵里奈はキスを交わす。その様子を、沙奈子はすごく嬉しそうに見てた。それから沙奈子も絵里奈の頬に『いってらっしゃいのキス』をして、絵里奈からは『いってきますのキス』を返してもらっていた。それがまた嬉しそうで、僕も頬が緩んでしまう。


「じゃあね、いってきます」


「いってらっしゃい」


絵里奈を見送った後の部屋は少しだけ広く感じられて、少しだけ寒くなったようにも感じられた。玄関を開けたから、外の冷たい空気が入りこんだだけかもしれないけどね。


すぐに沙奈子と二人でコタツに入って温まる。沙奈子が膝に座ってるから、すごくあったかい。すごく癒される。絵里奈も玲那もいないこの部屋の寂しさも紛らわされる。


しばらくすると、また、玲那からメッセージが届いた。


『絵里奈と合流したよ~。いってきま~す』


カラオケボックスの近くのバス停の前で秋嶋あきしまさんたちに囲まれた笑顔の絵里奈と玲那の写真も一緒に届いた。みんないい笑顔をしてると思った。


『いってらっしゃい』


僕と沙奈子と一緒に写った写真を添えて、メッセージを返す。そこに写った沙奈子も、ふわっと笑ってた。こうやって少しずつ笑顔を取り戻していってくれたらいい。


他の人からもちゃんと笑顔だって分かるくらいになるまではまだ先は長いかもしれないけど、焦る必要はない。僕たちにはちゃんとこの子が微笑んでるっていうのは分かるから。ちゃんと感情を取り戻してるっていうのは分かるから。後はそれを他人からも分かるように表現できるようになっていけばいいだけなんだ。




今日はみんなと一緒にいたから会合はない。このまままったりと寛げばいい。40分ほどで玲那から『着いたよ~』とメッセージが届いた。さっそくビデオ通話を繋げると、二人が手を振ってた。僕と沙奈子も手を振って応える。これが僕たちの家族団欒の風景だ。


いずれはまた一緒に暮らせるようになる。それまでこうやって一日一日を過ごすだけだ。まあここしばらくいろいろあって平穏無事とはいかなかったかもしれないけど、そういうことがあるのも人生だからね。


玲那もお風呂に入って、いつものように、沙奈子と絵里奈が人形のドレス作り、玲那がフリマサイトに出品した品物の管理作業をしてると、鷲崎わしざきさんからビデオ通話が入った。こうやって週に三~四回くらいの割合でやり取りするのがすっかり恒例になっていた。絵里奈や玲那とも、もう完全に友達って感じだ。


鷲崎さんの方はこのところ特に問題もなく過ごせてるらしい。それが良かったと思う。ただ、結人ゆうとくんに対する愚痴は相変わらずだけどね。


「せんぱ~い、聞いてくださいよ~。結人ったら私が買ってきたケーキが気に入らないからって食べてくれないんですよ~。おかげで結人が食べない分まで私が食べることになってしまったんです~。また体重が~…」


と泣きそうな顔で言ってた。


「あらら~、ご愁傷様」


「思春期の男の子って特に好みにうるさいって聞きますからね」


玲那と絵里奈が応えると、


「あう~、分かっていただけますか~?」


って縋るような目でこっちを見てた。そんな様子にも、僕の頬が緩む。こっちは少々いろいろあったけど、鷲崎さんのところは割と落ち着いてるようで安心した。




月曜日。本来なら今日がクリスマスだと思うんだけど、まあそんな細かいことはいいか。


という訳で仕事をこなす。今週金曜日で今年の仕事は終わりだ。本来はそれなりに忙しい時期なので、僕も仕事に集中する。残業はさせてもらえないけど自分の担当の分だけは極力こなすようにした。それでも上司の嫌味も相変わらずだった。それも右から左に聞き流す。むしろ、よくそんなにしつこくできるなって感心さえしてしまう。言ってる内容はだいたいお決まりのパターンらしいけどさ。


それも仕事の内と思ってやり過ごして、山仁やまひとさんのところに沙奈子を迎えに行った。


「おかえりなさい!」


チャイムを鳴らすといつものように窓を開けて僕の姿を確認した後で玄関の鍵を開けて、大希ひろきくんと千早ちはやちゃんと沙奈子が出迎えてくれた。もうすっかり、家に帰った感じで迎えてくれる。それがまた心地好かった。


「冬休みの宿題、もうほとんど終わったよ!」


千早ちゃんが嬉しそうに報告してきた。


「へえ、すごいなあ」


僕が応えると、


「すごいのは沙奈だよ。もう全部終わらしちゃったんだよ!。私はまだなのに」


だって。


「そっか、えらいな、沙奈子」


そう言いながら沙奈子の頭を撫でると、大希くんまで嬉しそうに笑ってた。その笑顔がとてもあたたかくて、やっぱり彼が沙奈子の未来の旦那さんだったらなぁとか思ってしまった。そうすればきっとこの感じの家庭を築いてくれるのになって。


だけどこればっかりはね。星谷ひかりたにさんも間違いなく本気だし。


それにしても、昨日もみんなと温泉に行ってきたんだろう?。そこで、千早ちゃんとも、星谷さんとも、イチコさんとも、波多野さんとも、田上たのうえさんとも一緒にお風呂に入ったんだろう?。なのにまるっきりそういうのを意識してない感じで平然としてるっていうのもある意味すごいよ。単に彼がまだそういう部分で幼くて意識してないだけなんだとしても、意識せずにいられてるっていうのがまたすごい。


僕の場合は、人間不信を拗らせすぎて、人間に対して怯えすぎて、性とかそういう感覚が欠落してしまった感じで気にならなかったけど、彼はそういうのとは全く違う気がする。彼は性とかそういうのも全部ひっくるめて相手をただ『人間』としか見てないって感じなのかなってやっぱり思った。彼の前では『性』とかそんなのは些末な問題なのかもしれない。彼がそうだから、千早ちゃんも大希くんを男性として意識しなくて済んでるのかも。でなきゃ普通、小学5年生ともなれば男の子と一緒にお風呂なんか入らないんじゃないかな。たとえ姉弟でも、一緒に入るっていう例の方が少なそうだ。


たださすがに、沙奈子は一緒には入らないんじゃないかな。


……入らないよ、ね…?。


別に一緒に入ったって相手が大希くんなら何も心配してないけど、父親としては何だか複雑な心境だな。娘が他所の男の子と一緒にお風呂入るって。なんかよく分からないけど、なんか複雑なんだ。嫉妬ってわけでもなさそうな、でもやっぱり嫉妬のような……?。


なんてことを考えつつ、僕は二階に上がったのだった。



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