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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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五百四十四 大希編 「吹っ飛べリア充」

クリスマスパーティーの二次会としていつものカラオケボックスに来た時、絵里奈と玲那に合流した。


「メリ~クリスマ~ス!!」


波多野さんの音頭でクリスマスカラオケパーティーが始まる。


玲那はしょっぱなから全開で、タンバリンとかを振って盛り上げてくれた。30分くらいしてから、


『ごめんね~、私は次に行かなきゃ』


というメッセージが入って、部屋を出て行った。秋嶋あきしまさんたちの方のパーティーに参加するためだ。


「玲那さ~ん、またね~!」


「いってらっしゃ~い!」


「らっしゃ~い!」


波多野さんと田上たのうえさんと千早ちはやちゃんがマイクを握り締めてノリノリで、イチコさんと星谷ひかりたにさんと大希ひろきくんも笑顔で小さく手を振りながら見送ってくれた。


波多野さんも田上さんもとてもいい笑顔だった。ここしばらくいろいろあったけど、心から楽しめてるんだろうなとは思った。


それからさらに30分ほどして、僕たちもおいとますることになった。沙奈子が疲れた表情を見せ始めたからだ。もちろん沙奈子も楽しんでくれてたけど、やっぱりこういう賑やかなのはこの子には負担が大きいみたいだ。本人は我慢するつもりだったらしいけど、無理はさせたくなかった。少しずつ慣れていければいいし。それに、三人でゆっくりしたいというのもある。


「じゃあ、沙奈子ちゃんもまたね~!」


「また~!」


「まったね~!」


と、玲那を見送ってくれた時と同じように見送ってくれた。本当にあったかいなあ。


沙奈子だけじゃなく僕も絵里奈もこういう賑やかなのは得意じゃないのに、みんなと一緒なら不思議と平気だった。沙奈子もだんだん慣れてきてると思う。無理に付き合ってるわけじゃないからなんだろうな。


絵里奈の手には、千早ちゃんが作ったケーキの残りが下げられていた。絵里奈と玲那にも食べてほしいと、あらかじめ取り分けておいたものだった。


部屋に戻ると、「ただいま」って言って三人で抱き合った。すごくホッとする。


「楽しかったですね」


絵里奈が嬉しそうにそう言った。すると沙奈子も「うん」と大きく頷いた。だから僕も「楽しかったね」と応えた。


後は、玲那たちのパーティーが終わるのを待つだけだ。と言っても、まだ一時間以上あるらしいけどね。その間、沙奈子は冬休みの宿題をすることにした。絵里奈に見てもらいながらのそれは、沙奈子にとっては十分に楽しいもののようだった。この子は勉強を楽しむことができてるんだと改めて感じた。だから二年も遅れてたのを取り戻すことができたんだろうな。それも、僕一人じゃここまでできなかった気がする。絵里奈や星谷さんが楽しくやってくれたからなんだって思うんだ。


そう言えば田上さんも、塾でやるよりも星谷さんにみてもらう方がずっと捗るって言ってた。厳しそうに見えるのはただの演出で、実際には楽しみながらやってるらしい。何気に星谷さんって、教師とかにも向いてるのかなと思ったりもした。教師を目指してるのはイチコさんらしいけど。


沙奈子と絵里奈がコタツに入って宿題をしてる間、僕は玲那から次々と送られてくるメッセ―ジや写真を見て、顔がほころぶのを感じた。玲那も、波多野さんや田上さんのことでいろいろ心配してたのは分かってる。実は玲那もそれでちょっと精神的に不安定だったりもした。二人の様子に自分を重ねてしまってたんだって。それでも二人を支えたいと頑張ってきたんだ。今日はもう、そういうのも忘れてただバカ騒ぎしてくれたらいいと思った。そしてその通りの、悪ふざけしてるような姿が映し出された写真が何枚も届いた。見れば、木咲美穂きざきみほさんの姿もあった。今回は参加できたんだ。


良かったね、玲那。


これは、玲那や秋嶋あきしまさんたにとっても大切な集まりになってるらしい。あんまり参加者を増やさず、玲那のこととかを話せる、玲那のことを受け入れてくれる人だけの集まりなんだって。玲那のための集まりなんだ。


正直言って僕とはあまり波長が合わない人たちだけど、それは決して秋嶋さんたちが悪い人だからじゃない。趣味嗜好が合わないことでノリが合わないだけなんだ。そういう人たちもそういう人たちで玲那とは波長が合う。僕たちと波長が合う人だけが『いい人』っていうわけじゃないっていうのを実感する。だからそれぞれでこうやって集まれればいいんだろうな。


玲那によると、秋嶋さんたちもすごく変わったらしい。アニメが大好きでそういうのを中心に盛り上がるのはその通りでも、他人の前で普通に笑えるようになったんだって。以前はどこか不自然な、明らかに無理して作ってる笑顔だったのが、ただただ無心にアニメを楽しんでる時の『素の笑顔』を、そんなに親しいっていうわけでもない人の前でもできるようになったって言ってた。だからか、大学でも人付き合いが増えて彼女ができたりとかもしてるって。


でもそのおかげで、アニメ繋がりの他の知り合いとかからは『裏切者~!』とか言われたりするらしいけど。『吹っ飛べリア充!!』とかも。まあ、秋嶋さんたち自身が以前は『クリスマス終了のお知らせ会』とか言ってクリスマスに同好の士だけで集まってたのが、集まってるのは相変わらず同好の士という点ではそのままでも、普通に『クリスマスパーティー』として今日は集まってるんだって。


なんて、難しく考えずに楽しめるなら、それでいいんじゃないかな。僕だって昔はこういうのが嫌いだった。嘘臭くて胡散臭くて上辺だけで楽しそうに振る舞ってる人間だけがすることだとか考えてた時期もある。今から思えば痛々しい話だけど、結局、幸せそうにしてる人を妬んでただけなんだなって今なら分かる。『妬んでるだけだろ』って他人から指摘されると『そんなんじゃない』とついムキになってしまうのも、図星だったからなんだろうな。


こんな風にすることだけが幸せだとは今でも思ってない。一人で幸せを噛み締めることだってできると思う。だけど、みんなで集まって楽しむっていうのを『上辺だけの仲良しごっこ』なんて決め付ける必要がなくなったのも感じてるんだ。


だからって『きよしこの夜』を歌ったりはしないけどね。さすがにそこまでは今さら気恥ずかしい。散々、『クリスマスなんて知ったことか』と突っ張ってきたのに自分に家族ができたからって急にそういうのはさ。


ただ、もし、絵里奈との間に子供ができたりしたら、そんなことも忘れて家族でクリスマスケーキを囲んでそれなりの大きさのクリスマスツリーを飾って子供たちと一緒に歌っちゃってたりするかも知れないとは思うかな。


振り返ってみれば、本当にいろんなことがあった一年だな。沙奈子の怪我があって、絵里奈と結婚して、玲那と養子縁組して、あの事件があって……。


でも、過ぎてしまえば何だか結果的に家族としてより一層、強く結びついた気もする。


とは言っても、あんまりそういうのはあってほしくはないよね。



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