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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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五百三十三 文編 「つきまとう過去」

日曜日。千早ちはやちゃんたちがお昼を作ってる間、僕たちはまた話をしていた。


「それで、どう?。フミの弟くんの方は?」


「サブアカウントと思しき方は依然、沈黙を続けています。新しいアカウントと思しきものはまだ発見されていません。本来のアカウントについては差し障りのない呟きが続いているだけですね」


玲那と星谷ひかりたにさんの会話に僕も加わる。


「ネットの方もそうだけど、日常的な素行の方は?」


「はい。そちらも現時点では今すぐ対処が必要と思しきものはありません。相変わらずゲームセンターやカラオケに入り浸ってはいますが、深刻なトラブルに至りそうな行動はないと言ってもいいでしょう」


その言葉に、玲那がホッとしたような表情になった。


「このまま何事もなければいいな。なんて言うと、フラグになるかな?。それはイヤだけど」


玲那の言う通り、ここで油断すると危ないかもしれないとは思いつつ、波多野さんのお兄さんみたいなことにいつだってなるとは限らない。危険性はあっても必ずそうなるとは限らないっていうのも事実だと思う。


Nっていう子に対する誹謗中傷や罵詈雑言が訴えることができるレベルだったとしても、実際に訴えられなければ大きなトラブルにはならないんじゃないかな。


だけどそれは……。


「だけどそれは、これまでやられたことをNって子に『ただただ我慢しろ』って言うのに等しい理不尽な話だっていうのも事実なんだろうな……」


言われた方の身になってみれば、やられっぱなしで今までのことを水に流せっていう話になるんだって、僕が感じたことを素直に口にさせてもらった。


僕たちは、今が幸せだから過去を蒸し返して荒れるのが嫌で、だから『そのことはもういい』って形で諦めもつくけど、現在進行形でされてる人にはさすがにそれはとも思うから。


星谷さんが応える。


「はい。山下さんがおっしゃりたいことも、ごもっともだと思います。先方が既にこれまでの発言を証拠として記録し、告訴に踏み切るための手続きに入っている可能性も含め、今後も慎重に見守りたいと思っています。もし、先方が告訴に踏み切るのでしたら、私は敢えて先方側につくことをフミにも了承してもらっています。


過去の発言を掘り返してみても、特定の人物に対する誹謗中傷に当たると思しきものは一年以上前から続いていました。昨日今日のものではありません。これだけの期間、子供の行為を見過ごしていたことについては、ご両親の監督責任は決して小さいとは言えないでしょう。


先方にも好ましくない行為があったのだとしても、それを理由に犯罪を実行に移していいというわけではありません。事実、実際に発生している事件の多くが、被害者側にも原因となるであろう好ましくない行為に対する復讐や報復として行われているものだというのも確かなのです。


イジメられたことに対する報復であったり、不貞行為に対する報復であったり、長年の嫌がらせに対する報復であったりという事例が非常に多いということが分かっています。


玲那さんの事例など、まさにその典型でしょう。非常に残念なことです。


フミの弟さんの事例についても、先方に何らかの好ましくない行為があってのことであればなおさら、報復の応酬になることをどこかで止める必要が出てきます。


私としても、今回、フミの弟さんが絡まれたことで意気消沈し、自身の行為を改め、かつ先方がそれをもって事態の収束と判断しこのまま治まってくれることを期待せずにはいられません。『痛み分け』で終わっていただけるのならそれに越したことはないのでしょう。


さりとて、そのような形で終わることを強要することもできません。ならば、告訴によって法に基づき司法に委ねるという形に持っていくのが落としどころだと考えます。そうすれば、先方にどのような落ち度があったのかという点についても明らかにすることもできますので」


結局、そこが一番確実なのかなと、僕も思った。裁判で決着をつけるのがダメージが少なくて済むのかなと。


事件を起こせば、その事実は一生ついて回ることになる。『こういう事件を起こした奴』って評価は、ことあるごとに影を落とすことになる。


玲那のことを考えればそれがすごく身近に感じられる。


恐らく、今の玲那は就職しようとしてもあの事件の加害者だと知られれば採用されない可能性が高いだろうな。事件を起こした人と起こしてない人とどっちを採用するかって言われたら、よっぽど能力的な差でもない限り事件を起こしてない方を採用するのが普通の判断だと思う。


もし、誰か好きな人ができたとしても、『実の父親を殺そうとした娘』ってなったら、やっぱり相手は付き合うのを躊躇うんじゃないかな。僕は玲那のことをよく知ってるしあの子がどんな目に遭って追い詰められた結果としてああなったのかっていうのを知ってるから受け止められても、そうじゃない人にとってはあの子はやっぱりただの『殺人未遂事件の犯人』でしかないんだ。


幸運にもそれを承知の上で好きになってくれる人が現れたとしても、そこから進んで結婚とかになると今度は相手方の両親や親戚が絡んでくることになる。そういう人たちにまで認めてもらうとなれば、さらにハードルは高くなる。


僕だって、沙奈子や玲那の結婚相手に前科・前歴があったりしたら『大丈夫かな』って思ってしまうよ。いくら『過去のことは水に流して』って言われても、まったく気にしないなんていうのは無理だと思う。


やっぱり、現実の世界では、事件を起こしたっていう事実は、そうやって、一生、つきまとうことになるんだろうな。


その中では、玲那はすごく恵まれた方だって気がする。ちゃんと彼女のことを理解して受け入れてくれる人がこんなにいるんだ。だから立ち直ることもできるし幸せだって掴むことができる。


だけど、そういう存在が身近にいない人が事件を起こしたら?。自分の家庭でも孤立してて、家庭の外にも上辺でしか付き合えない人しか周りになかったら?。


そういう人が事件を起こしてしまったら、いったい、どうやって立ち直ったらいいんだろう?。


田上さんの弟さんは、本当にそういうことの間際にいるんじゃないかな。


Nっていう子に対する誹謗中傷が、刑事事件ってことになれば、中学生だから実際に逮捕とまではいかなくても、前科まではつかなくても、『こういう事件を起こした』っていう事実は残って、それがずっとつきまとうことになるんじゃないかな。


だったら、刑事事件じゃなくて民事として訴えられる分にはまだマシなんだろうか。


僕にはその辺りの詳しいことは分からないけど、田上さんがなるべく苦しまない形で決着がついてくれることを祈るしかできないなっていうのが正直なところだった。



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