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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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五百二十四 文編 「自分でなるもの」

いろんな生き方を肯定することが、沙奈子や玲那を肯定することにもなると僕は思ってる。あの子たちがどんな生き方をするとしても、僕はそれを認めたい。


人形の服を作るのを仕事にしたって構わない。友達とカラオケに行ってアニメの歌で盛り上がったって構わない。僕には分からない話で楽しんでたって構わない。少なくとも誰かを傷付けて苦しめるような生き方じゃないのなら、あれこれ口出ししないようにしたいと思ってる。


ただ、誰かを傷付けて苦しめるような生き方をするようなら、それは損だって言ってあげたいとは思う。そんなことをして結局は自分が嫌な思いをしてトラブルを抱えるようになるんだと教えてあげたい。


聞き入れてもらえるかどうかは分からないけど。


でも、沙奈子や玲那だったらそういう面では大丈夫そうかなって気もしてる。まず本人がそういうの好きじゃないから。




夕方。山仁やまひとさんのところに行くと田上たのうえさんが少し嬉しそうにしてた気がした。


「いや~、あいつがやり込められてるのを見るのが嬉しくって」


田上さんがそう言ったように、弟さんはまだ例の人に絡まれてるようだった。彼も諦めずに反論はしてるんだけど、まるで手応えがないみたいだ。それどころか余計にツッコまれることにしかなってないって。何か言えば言うほど矛盾を突かれてますますジリ貧なんだって。


「でもあんまりそんなこと言ってると足を掬われるぞ」


波多野さんがニヤニヤしてる田上さんに向かって言った。


「うん、分かってる。分かってるんだけどさ、ついついね~。


だけど、その分、家の中では機嫌悪そうにしてるかな、あいつ。でもさ、それって結局は『自業自得』ってやつだよね。他人を誹謗中傷したり罵詈雑言を投げかけたりってのは、相手に訴えられたら罪になることだってある、犯罪的な行為だよね?。


私、今までは家庭環境に問題あるのが全員、犯罪するわけじゃないから、犯人とかが裁判で自分の生い立ちとか境遇を出してきて情状を求めるのって何か違うって気がしてた。


でもさ、玲那さんの事件もそうだけど、あいつがネットで誰かを誹謗中傷したり罵詈雑言投げかけたりってのも、訴えられなけりゃ罪にはならないとしても、場合によったら犯罪ってことにもなる行為だよね?。単に摘発とかされてないだけで、ばれてないだけで、犯罪行為をしてるのは実はすごく多いんじゃないかって気付いちゃった。


同級生をイジメたり、社会人になってからも同じ職場の人とかをいびったり、セクハラしたりパワハラしたり、法律無視してブラック企業を経営したりとかっていうのも家庭環境に問題あったからなんじゃないかって思うんだ。


家庭環境に問題ある人が全員犯罪するわけじゃないって言っても、犯罪として捕まってないだけでほとんど犯罪と変わらないことしてるっていうだけだったらすごく多い気がする。


職場イジメとかセクハラとかパワハラとか法律を無視した会社経営とかも、本当は犯罪だよね?。『捕まらなけりゃ犯罪じゃない』ってわけじゃないよね?。


あいつも、同級生のことを中傷してたりっていうのが警察沙汰にならなかったとしても、それは犯罪をしてないってことにはならないよね?。


だったら、家庭環境に問題ある人の多くが人間的に問題あるのに育ってるってことなんじゃないかって思うの」


そんな田上さんの言葉に、玲那が応じる。


「フミの言いたいこと、すごくよく分かるよ。


警察沙汰にならなくても犯罪っていうのは起こってて、全てが摘発できないっていうだけなんだよね。私の元の両親がやってたことだって摘発はされなかったけど、完全な犯罪だったし。あの人たちの家庭環境も、ロクなものじゃなかったって知ってる。


絵里奈やお父さんも、悪いことはしてないけど、でも『闇』を抱えてるのは本当なんだ。そしてそれは絵里奈やお父さんの家庭環境に原因がある。二人はたまたま悪いことしないで済んでるけど、それはみんなに助けてもらってるからなんだよね。だから悪いことをしないで済んでるだけだって、絵里奈もお父さんも言ってる。


そういうことだと思うんだよ。ネットで誹謗中傷や罵詈雑言や悪態を垂れ流してるのだって、自分の家庭環境を思い浮かべてみればいいんだよ。自分が幸せじゃなかったから他人に八つ当たりしてるだけだろ?。不平不満があるからそんなことして憂さ晴らししようとしてんだろ?。幸せだったらそれこそなんでそんなことしてんだよ?。意味分かんない。


私だって、元の両親があんなじゃなかったら事件を起こしてないよ。って言うか起こす理由が無いよ。もちろん、だからってあんなことしていい訳じゃないから私はそれについては罪を問われるのは当然だって思ってる。でもさ、事件を起こすきっかけがあったのは確かなんだ。それがなければって思ってしまうのもホント。


だからさ。私、もし自分が子供を生むことがあったらさ、あんな目には絶対に遭わせたくないんだ。『幸せだ』って、『生まれてきてよかった』って思わせてあげたいんだ。


だって私、絵里奈や沙奈子ちゃんやお父さんやみんなに出会えて幸せだから。生まれてきてよかったって思えてるから。この気持ちを、自分の子供にも味わわせてあげたいから」


柔らかい笑顔でそこまで言って、玲那はふっと引き締まった表情になって真っ直ぐに前を向いた。そして、


「カナやフミはどうなの?。自分と同じ目に自分の子供を遭わせたいと思う?」


って問い掛けた。


そんな突然の玲那の質問にも、波多野さんは慌てなかった。


「そんなのイヤに決まってるよ。自分がイヤだったのに、自分の子供も同じ目に遭わせるとか、イヤすぎるって思う」


波多野さんに続いて、少し慌てた感じで田上さんが答える。


「私もイヤです。私のお母さんみたいな人になるのはイヤ。自分の家族を『レンタル家族だ』って思わなきゃいけないようなのにはしたくないです!」


胸の前で拳を握り締めて、前のめりになってそう言った。


その二人の様子を見て、玲那が嬉しそうに笑う。


「だよね~。私もそうだよ。だったらさ、私たちは自分の子供に『幸せだ』って、『生まれてきてよかった』って思わせてあげようよ。私、そのためだったら協力を惜しまないよ。カナやフミのことだって支えるよ。


事故とか病気とか、そういう形でも辛いことってあるけどさ、そういうのがあっても幸せだって思える時はあると思うんだ。私もあんな人たちのところに生まれてあんな目に遭ってきたって、今は幸せだもん。生まれてきてよかったって思えるもん。


幸せってさ、誰かがくれるものじゃないんだよ。自分でなるものなんだよ。誰かがくれるのを待ってるだけじゃダメなんだよ。誰も幸せにしてくれないからって周りを恨んでるだけじゃダメなんだよ。


そうやって周りを恨んで誰かに八つ当たりしてる奴のことなんて、普通は助けたいって思わないもんね」



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