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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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五百七 文編 「誰も助けてくれない」

現実の世界にはスーパーヒーローはいない。


名もないモブを『無辜の人々』と言って無条件に守ろうとしてくれるヒーローなんていないんだ。他人を気遣えない人間は、他人からも気遣ってもらえない。


それが現実だと思う。


本当にたまたま、傍に一方的に他人を気遣える人がいてくれて助けてくれるなんていう幸運に恵まれる場合があるにしても、ほとんどの場合は、他人を不快にさせたり恨まれたり嫌われたりすることで結果的に見捨てられるっていう感じなんじゃないかな。


『誰も助けてくれない』って考えてる人は、本当に幼い子供の場合とかは別にしても、実は自分がそういう状況を招いてる場合が多いんじゃないかな。


僕が、この集まりの中でほんのささやかなものでも力になりたいと思えるのは、ここに集まってるみんなが誰かを気遣って支えてあげたいと思える人たちだからっていうのがあるのは紛れもない事実なんだ。


館雀かんざくさんの一件は、それを改めて実感させてくれた気がする。僕は、館雀さんのことも『救われてくれたらいいな』『幸せになってくれたらいいな』とは思えても、僕自身がそのために何かをしようという気にはなれない。それが嘘偽りない僕の本音なんだ。


これがもし、館雀さんがここにいる誰かの家族とか友達とかだったら、また違うかもしれない。もう少し真剣に考えることもできるかもしれない。でも残念ながらそうじゃない。


人間ってそういうものだと思う。『この人を救いたい。守りたい』と思えてしかもそれを実行に移せる相手って本当に限られてるんだ。自分にとって身近で、実感を抱ける人だけなんじゃないかな。完全に見ず知らずの人のために自分のすべてを投げ出してでも行動に移せるようなスーパーヒーローは、現実にはまずいないんだ。


だからこそ、ごくたまにそういう行動をしてみせた人がニュースになったりするんだ。


本当に、滅多にいないから。当たり前にその辺にいくらでもいたら、ニュースにならないから。


そんな、ごくごく限られた条件でしか遭遇できないような『ヒーロー』に助けてもらうことを期待しつつ、でも自分は他人を罵って蔑んで嘲って見下して傷付けてってしててなんて、本当に意味が分からないほどムシが良すぎるんじゃないかな。


僕はたぶん、それこそスーパーパワーを持った無敵のヒーローでもない限り、館雀さんを自分の手で救うために行動に移すことはないと思う。現実の僕にそんな余裕はないから。沙奈子や絵里奈や玲那を守って、イチコさんたちの力になってってしたらもうそれで手一杯だから。


そういう意味では、田上さんの弟さんについては、館雀さんよりはまだ『田上さんのためなら』っていう風に思うこともできるかもしれない。それでも、玲那に対してやったことについては、許すことはできないな。積極的に罰を与えたり仕返しをしたいとは思わないにしても、それだけだ。


ただまあ、罰を与えたり仕返しをしないっていうだけでも、実は助けてることになるのかもしれないけどさ。


実際、そういう理由で、罵った相手から仕返しされたりしてる人もいるんだろうな。でもそれは自分が招いたことなんだ。ネットで好き勝手言っててそれで誰かに反論されたり噛み付かれたりして嫌な思いをしても、それは自分が招いたことなんだよって僕も思う。何も同情できない。


ましてやそれで『自分は不幸だ』なんて思ってるとしたら、それこそ『知ったことか』って感じなんだ。


僕は善人でも聖人でもないから。


単純に主義主張を並べるだけなら勝手にしてればいいと僕は思う。そういう人に積極的に関わろうとは思わない。関わらないことが、ある意味ではその人のためになるかもしれない。主義主張を並べることの邪魔をしないという意味で。


だけど、誰か特定の人を狙い撃ちにして攻撃すれば、反撃されたりしてもそれこそ自分が招いたことだろとしか思わないかな。


沙奈子も絵里奈も玲那もそういうことをしない。


沙奈子は、千早ちゃんにきつく当たられていた時でも、千早ちゃんのことを罵ったりしなかった。


絵里奈は、玲那が世間から集中攻撃を受けたことを『どうして!?』と僕の前で声を上げることはあっても、直接、罵り返したりはしなかった。


玲那もそうだ。何を言われても反論さえしようとしなかった。


だからこそ、僕は三人のことを守りたいと思う。誰かを傷付けることを良しとしないから。


イチコさんたちもそうなんだ。つい感情に振り回されて誰かを罵ってしまったりすることはあっても、本人がそれを正しいことだとは本気で思ってない。良くないことをしてしまったと反省することができる人だからこそ、僕も力になりたいと思えるっていうのは間違いなくある。


田上さんも、実の家族に対して感情的になってしまうことはあっても、『いっそ壊れてしまえばいい』と言ってしまうことはあっても、でも同時にそうなってほしくないって思ってるのが分かるから、何とか力になれればって思えるんだ。


彼女の弟さんも、そういう風に思えればなって思ってしまう。


ネットで玲那をはじめいろんな人に対して罵詈雑言を投げつけて嘲って蔑んで見下して傷付けようとしてたのが分かって、田上さんは、本気で弟さんのことを憎んでしまいそうになる、見捨ててしまいそうになる自分に苦しんでるのが伝わってきた。


せっかく、ギリギリのところでまだ何とか気持ちを繋ぎとめようとしてくれてるお姉さんに対して自分でとどめを刺すようなことをして、本当に何がしたいんだろうって思ってしまう。お姉さんが支えようとしてくれてた玲那を貶めるとか、田上さんの気持ちや想いをすべて台無しにしようとしてるのと同じじゃないかな。


そういうことをしておいて、もし、『誰も分かってくれない』とか『自分は不幸だ』とか『自分が報われないのは社会の所為だ』とか思ってるんだとしたら、それこそ『何を言ってるんだ?』って言われる話なんだろうな。僕だってそう思ってしまう。


そして、弟さんをそういう風にしてしまったのは、そんな人間にしてしまったのは、ご両親なんだろうな。僕も沙奈子と一緒に暮らしてみて、あの子の父親になってみて、僕の言動や振る舞いがあの子にどういう影響を与えてるかっていうのを注意深く見て、子供がどんな人間になるのかっていうのは親の影響なんだっていうのをものすごく強く感じたんだ。


だから僕は、いっそう、沙奈子の前で誰かを罵ったり傷付けようとしたりしたくないって思えるんだ。


だけど、田上さんのご両親は、特にお母さんは、子供の前ででも平然とお父さんをATM呼ばわりしたり罵ったり蔑んだり貶めたりしてるって言う。弟さんはそれと同じことをしてるだけなんだろうな。


館雀さんについて田上さんがきつい言葉を使わずにいられなかったのも、その影響があるんだと感じるんだ。



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