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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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五百四 文編 「大きすぎる力」

星谷さんがもし会社を作るとしたらの話もすごく気になるけど、今はもっと気になることがある。もちろん、田上さんのことだ。そして、田上さんの弟さんのこと。


「田上さんの弟さんの様子はどうなんですか?」


その僕の質問に、星谷さんは落ち着いた様子で応えてくれた。


「今のところは、ゲームセンターに行ったりカラオケに行ったりというだけの状態ですね。この程度ならそれほど心配もいらないでしょう。現時点では気になるような存在との接触もありません。


もちろん、これからも油断せずに見守っていかなければいけませんが」


との返事に、僕も少しホッとした。


しかしこれをずっと続けていくとなると大変だ。費用とかのことも気になるし。


すると玲那がズバッと切り込んでいく。


「それにしてもピカ、お金とか大丈夫?。探偵雇うのだってただじゃないよね?」


それにも平然として、


「探偵をずっと張り付かせてる訳じゃありません。既に、サブアカウントと思しきものも含め、ネット上の彼の投稿等を自動で収集して動向を監視するシステムを構築していますから」


だって。


でもそれには玲那が慌てた感じでツッコむ。


「って、逆に怖いよ、ピカ。そんなの完全にスパイの世界じゃん!?」


僕も同感だった。こういうことがさらっとできてしまうことが怖いと思った。


「本人が一般公開している情報ですので、問題ありません。嫌ならば公開しなければいいんです」


いやいや、まるで当たり前のように言うけど、それって実際に諜報組織とかがやってる手法じゃないのかな。


ただ、星谷さんのやってることも怖いけど、それと同時に、自分の普段の行動がすべて筒抜けになるようなことを自分で公開してるってことが怖いと思った。弟さんはそれを分かっててやってるんだろうか。


僕はもう、ブログの更新もやめてしまった。ネットはほとんど見ていない。玲那も、あの事件の前に使っていたアカウントとかはすべて削除したし、今はもう発信はしてないと言ってた。それでも、昔のコメントとかがコピーされていまだにネット上に晒されてるらしい。特に危ない発言みたいなのはしてなかったはずなのに、おかしな解釈を加えて悪意しか感じない注釈をつけて晒してるのもあるって言ってた。だから玲那はもう二度と発信はしないって決めてるって。


だから今ではそういう形で追跡とかされないにしても、ホントに怖いなあ。


それだけに、星谷さんの本気が見える気もした。田上たのうえさんを苦しめようとするのは容赦しないって言ってるようにさえ思えた。


だけどここまでやっても家庭の問題、と言うか、田上さんのお母さんの内心にまでは届かないんだな。お父さんをATMとか呼んで馬鹿にしつつそのお金で贅沢三昧とか、そんなことをしてしまうのをやめさせられないんだなって思ってしまった。


結局、自分を変えられるのは自分自身だけってことなのか。


弟さんにしたって、行動を監視はできても考えを変えることはできないんだ。夜遅くまで遊び歩いたりしなければ星谷さんもここまでしないだろうにな。


それと同時に、ここまでして見守ってもらえてるっていう風にも言えなくもないのかな。いや、でもやっぱり怖いよ。


「ピカ~、まさか私たちのことも監視とかしてないよね~?」


僕には聞きにくいことも、玲那はさらっと聞いてくる。そしたら星谷さんの方も動じることなく、


「ええ、もちろんです。信頼していますから」


と応えてくれた。


でも、そうだな。星谷さんになら監視されてても平気かもしれない。他の人にされたら嫌すぎることも、相手によっては大丈夫なんだろうな。


それに、なるべく星谷さんの手を煩わせないようにもしたいと思った。彼女は真面目なんだ。守りたいっていう気持ちがすごく強いから、ついついそこまでやってしまう。けれど、もし、彼女がやりすぎてしまいそうになった時には、きっと、イチコさんたちが止めてくれるんだろうな。お互いにそうやって客観的に見るようにしてるんだ。


学校でスクールカーストを作ろうとしてしまった星谷さんを止めたみたいに。


人間って、自分のことが自分で見えなくなる時があるって思う。そういう時にちゃんとブレーキをかけてくれる人がいるっていうのは、きっとありがたいことなんだ。


波多野さんのお兄さんだって、ブレーキをかけてくれる人がいればあんな事件は起こさなかったかもしれない。田上さんのお母さんだって、お父さんのことをATM扱いするその姿が他人から見たらどう感じるかっていうのをちゃんと分からせてくれる人がいたらこんなことにはなってなかったかもしれない。


玲那の時は僕たちが止めてあげられなかった。ただそれも、ほんの少しの行き違いだった気がする。ちょっとした違いで止めることができてた可能性もあった気がする。それだけに悔しいけれど、こうして僕たちのところに戻ってこれたのは、最後の最後で止めてあげられたからって気もするんだ。でなければ、玲那はあのまま帰ってこなかったかもしれない。僕たちのところに帰るのを諦めてしまってたかもしれない。


そういう意味でも、人は一人では生きられないっていうのを感じるな。


自分は一人だと感じてるなら、それは自分が周囲の人を拒絶してるからだと思う。昔の僕がそうだった。たとえ自分では気付いてなくても、やってる本人が意図してなかったとしても、結果として僕はたくさんの人に助けられて生きてきたと思う。鷲崎さんもその一人なんだ。お節介で押し付けがましいと当時の僕は感じてても、それと同時に、彼女のお節介のおかげで僕は踏み止まれてたこともあったようにも今は感じるんだ。


自分は一人で生きてるなんて嘘だ。もし本当に一人で生きてるのなら、そんなことを言ってるっていうの自体が他人には伝わらないはずだから。そう言ってるっていうのを誰かが伝えてくれてるから。誰かが作ってくれたものを利用してるはずだから。


他人が作ってくれたものを利用しておいて、自分一人だけの力で生きてるなんて、勘違いも甚だしいよね。


僕たちは今、助け合って支え合って生きてる。そしてそれは、お互いに道を踏み外さないように声を掛け合ってるっていう形でもあると思う。


星谷さんは、大きな力を持ったすごい人だ。だけど力を持っていていろんなことができてしまうが故に、本人も気付かないうちにやりすぎてしまうこともあるんだろうな。それ自体が、星谷さんの抱えてる問題の一つなのかもしれない。他人の人生すら簡単に捻じ曲げてしまうことができるほどの大きな力を持っていることそのものが、彼女の抱えるリスクなんだろうな。それを気付かせてもらえるっていうのも、自分以外の誰かがいてこそなんだ。


星谷さんがこうやって僕たちの輪の中にいるのは、その力で守ってもらうためじゃない。彼女の持つ大きすぎる力が制御を失わないように支えるのも、僕たちの役目なんだろうな。



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