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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百九十七 文編 「代償行動」

嫌なニュースを見てしまってちょっと気分は落ち込んだけど、今日も絵里奈と玲那に会いに行くために用意をする。


十一月に入って空気はすっかり秋って感じだった。と言うか、変に寒い時もある。何だろう。この寒さ。


だから今年もまた、ファンヒーターを出してきた。コタツはもう用意してたけど、コタツだけだとお風呂上りとかが辛かったから。


掃除とかで体を動かしてると少し汗ばむくらいだから、すごく中途半端な寒さっていう気もするけど。


まあそれはさて置いて、午前の勉強も終わらせて今日はまた人形のギャラリーに行く。前回、その作家さんの過去の作品を展示した時に用意できなかった分が今回展示されてるんだって。


好きなんだなあ。


でも、あそこの喫茶スペースはすごく落ち着いてて静かで、玲那とゆっくり話をするにはすごくいいところだから僕も好きだけどさ。


というわけで、すっかり慣れた感じで人形のギャラリーに集まって、沙奈子と絵里奈は人形を見て、僕と玲那は喫茶スペースで寛ぐことにした。


『フリマの方はすごく順調だよ。平均したら毎月、会社勤めしてた時の半分くらいの収入はあるんじゃないかな。確定申告が面倒だなあ。その点では、会社勤めだった時は楽で良かったな』


さすがにここでテキスト読み上げアプリを使うわけにもいかなくてメッセージでのやり取りになっても、玲那は楽しそうだった。それにしてもフリマの方も順調なんだな。


『沙奈子ちゃんのドレスの固定ファンも何人か着いたよ。まあまあな値段にしたのにすぐ売れるの。だから沙奈子ちゃんの口座にはもう十万円近くのお金が溜まってる状態なんだよ』


へえ、それはすごい。小学5年生で随分なお金持ちじゃないか。僕は両親から小遣いすら満足にもらってなかったのに。それを思うと別世界の話みたいだよ。


ただ、沙奈子自身は僕が渡してるお小遣いすらほとんど使わないで、ずっと貯めてるみたいだった。先週、水族館に行った時に小さなストラップを自分のお小遣いで買って、家で使う筆箱に付けてるくらいだ。


沙奈子にとっては、お金で買えるものはそんなに重要じゃないのかもしれない。あの子はずっと、お金じゃ買えないものを欲してきたんだと思う。自分のことをちゃんと見てくれる存在を。


そういうものさえお金で買おうとする人もいるかもしれない。中には自分の体を提供してそういうのを手に入れようとする人もいるかもしれない。それはそれぞれのやり方だから口出ししないつもりではいるけど、沙奈子がそうなってしまうのは僕は悲しいと感じてしまう。特に、体を提供して、その代わりに自分を見てくれる相手を求めるようなのは。沙奈子がそんなことをするとか考えると頭がおかしくなりそうだ。


だから僕は、あの子のことをちゃんと見てたいと思うんだ。あの子が、自分を認めてくれる人がすぐ傍に居るっていうのを実感してくれて安心してくれるのがなによりなんだ。そうしてれば焦って自分を売るような真似をしなくて済むんじゃないかって。


そう言えば以前、星谷ひかりたにさんがポロッと口にしたことがある。


『私は、売春を援助交際とか言い換えるのが嫌いです。売春は売春なんです。売春は買う方も売る方も厳しく罰する必要があると思ってます』


って。ただそのすぐ後で、


『けれど、売る方は特にそうなってしまう事情とかも考慮しないといけない事例が多いように感じます。罰するだけでは止められないのかもしれません』


とも言ってた。そうやって冷静に考えようとするのがすごいなあ。


売春とかのことについては、玲那がまさにその当事者だった。たった十歳で実の親にそれを強要されて泣きながらお客を取ってたなんて、想像するだけで頭がおかしくなりそうだよ。そんな玲那が、『売春してたから』っていうだけで罰せられたりしたら、僕はそれこそ納得できない。子供の頃はもちろん、もし大人になってからもそれを続けさせられてたりして玲那が罰せられるなんて、本当に嫌だ。


そういう事情がある場合でも一律で罰するのが正しいとは、僕にはどうしても思えない。そういうことを考えると、一層、沙奈子がそうならないようにしてあげなきゃって思う。


あの子が物やお金に強く執着しないのは、僕がちゃんと見てあげられてるからだとしたら嬉しい。自分の親に捨てられたあの子が、物やお金や、ましてや自分の体を提供して得たその場限りの人間関係に縋るなんて、悲しすぎる。だからそうならないように、僕はあの子のことを見ていてあげたいんだ。


もちろん今は、絵里奈や玲那のこともだけどね。


昔のことを話す絵里奈は、ギャルっぽい恰好をしていたことをやけに恥ずかしがって笑い話にしているけど、実はその一方で、両親との関係が上手くいっていないことの寂しさを、その場限りの人間関係で穴埋めしようと考えそうになってたことがあるっていうのも匂わせてるんだって僕は感じてた。


幸か不幸か、その時に絵里奈の傍には香保理かほりさんがいてくれて、香保理さんとの関係が代償行動になってくれてたんだっていうのが何となく伝わってきてた。香保理さんが亡くなってからは玲那がその代わりをする形になったらしいけど。


そんな関係が歪なものだっていうのは僕も感じる。でも、少なくともお金に変えようとするのに比べればとも感じるんだ。


僕は、沙奈子や絵里奈や玲那が『商品』として扱われるのは嫌だ。ましてや玲那は実際にそういう扱いを受けてきた時期がある。それを繰り返したくない。


もし、お金が欲しいのなら別の形で、普通に働いてって形でしてほしい。それで得られる程度のお金で満足できるようにしてあげたい。そういう意味では、沙奈子が作ったドレスがお金になるというのはすごくいいと思う。小学生でこういう形でお金を得ることに嫌悪感抱く人がいるとしても、少なくとも売春よりはマシだと僕は感じてる。


これは、田上たのうえさんにも当てはまることなのかな。本当の家庭には居場所がなくて、自分のことを認めてもらえてるっていう実感に飢えててっていう今の田上さんも、そういうのを気を付けないといけないのかな。


実際には、イチコさんたちがいてくれて認めてもらえてるからそんな方向に進まずに済んでるのかもしれないにしても、これからも注意深く見守ってあげないといけない気がする。


本当に、いろんなことを考えなくちゃいけないな。こんな事ばかり毎日毎日毎日毎日考え続けてる僕もいろいろおかしいんだとは思うけど、少なくとも考えること自体は僕はぜんぜん大変でもないし辛くもない。性に合ってるんだと思うんだ。それを活かしてこれからも大事な人のことを大切にしていきたい。


それが、僕にとっての幸せだから。



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