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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百九十四 文編 「複雑な関係」

日曜日。今日のお昼は久しぶりに餃子を作ることになってる。昨日の夜に星谷ひかりたにさんから電話が掛かってきたんだ。お姉さんからリクエストがあったらしい。餃子が食べたいって。


そういう訳で、みんなで餃子を作ることにする。


玲那の方は、絵里奈が仕事に行く前に用意してくれてたのを焼くだけで食べられるようになる状態だった。


千早ちゃんと沙奈子と大希ひろきくんと星谷さんと僕とで、餃子の具を皮に包んでいく。みんなで話しながら。


これが仕事でやってるんだったらしゃべりながらなんて不衛生でとんでもないってことになるんだろうけど、僕たちはみんな、自分たちが食べる分には気にならないって感じなんだよね。


でも玲那は画面の向こうだからそれこそ関係なかった。


「ピカ、このアプリ、ホントすごくいいよ。ありがとう」


玲那の素直な気持ちだった。これが完成してたことは、僕たちも直前まで知らされてなかった。こういうことを試してるっていうのは話してても、出来がどの程度のものになるのかっていうのが具体的に掴めていなかったことで、あまり期待させては申し訳ないっていう星谷さんの配慮だった。だから僕たちもあまり期待しないように触れないできた。だけど、実際に出来上がったものはそれ以上のものだったと思う。玲那の「ししし」って笑い方なんかは予め登録されててワンプッシュで使えるようになってるって。あと、「おとーさん」とか「愛してる」とか「なんでもな~い」とかも。玲那が使いやすいように考えられてるんだ。


ワンプッシュで使える言葉なんかは自分でも登録できて、それぞれ使いやすいようにカスタマイズもできるようになってるらしい。


「いえ、喜んでいただけて私もホッとしています」


星谷さんが冷静に応える。しかもその上で、


「ですが、これはあくまで叩き台でしかありません。私が本当にご用意したいのは、普通にしゃべれるようになるシステムです。しかも、玲那さんの肉声に近い声で。その為には、玲那さん自身に協力していただくことになると思いますが、その時はよろしくお願いいたします」


だって。


「そんな!。『よろしくお願いいたします』はこっちのセリフですよ」


頭を下げた星谷さんに、僕は軽く狼狽えながらそう応えてた。玲那も、


「なんかもう、申し訳なくて泣けてくるよ。ありがとう、ピカ」


って腕で目を覆いながら何度も頭を下げてる。本当に泣いてる訳じゃないにしても、それくらいの気持ちっていうのは伝わってきた。


すると星谷さんは毅然として言う。


「いえ、技術というものは本来、こういうことの為にあるはずなんです。それを正しく活かすことは、当然のことだと私は思います。センシング技術は既に極めて高度なレベルの達していると感じます、ですが、それが十分に活かされているという実感は残念ながら私にはありません。実際の技術とそれを活かした、本当に人のためになる道具の開発を私は進めたいのです」


玲那のためというだけじゃなく、彼女には彼女なりの想いがあってやってるんだっていうのがすごく伝わってくる。そこに、


「ピカお姉ちゃんなら世界中の人を救えるかもよ」


と千早ちゃんが嬉しそうに言った。半ば本気でそう思ってるんだろうなっていうのを感じる。さらに大希くんも。


「僕もピカちゃんならできるかもって思う。僕はピカちゃんが世界を救うところを見てみたい」


それは、子供っぽい夢想でしかないのかもしれない。単純に思ったことをただ口にしただけかもしれない。だけど、星谷さんのような人が大きく世界を動かすこともあるっていうのは事実だと思う。そして、大希くんにそんな風に言われた彼女自身も、ハッとした顔になった。ただ照れるだけじゃなく、メロメロになるだけじゃなく。


姿勢を直した星谷さんが、恥ずかしそうに顔を染めながらも、大希くんを真っ直ぐに見詰めて応えた。


「はい。できるかどうかは分かりませんが、それを目指せる人になりたいと思います」


そうか。能力があってもそれをどう活かすかっていうのは人それぞれなんだ。だから自分の能力を活かすも殺すも、本人の努力とかだけじゃなくて、そのためのきっかけを与えてくれる何かが必要なのかもしれない。僕は今、それをまさに目撃してるのかもと思った。


この時、さすがに本人の前では言えなかったらしいけど、星谷さんは改めて大希くんに対して思ったそうなんだ。


『私は、広い心と大きな器を持ったあなたに相応しい人間になりたいといつも思っています。あなたのためなら、私は何だってできる気さえします』


もちろんそれも、本人がそう思ってるだけなのかもしれない。どんなに頑張っても思いを込めても実現できないことだってあるのは事実なんだろう。だけどそれを目指す気持ちを持つことも大事なんだろうな。


でも、そんな星谷さんと大希くんに向かって、千早ちゃんがじと~っとした目で言う。


「な~んか、二人だけの世界に行っちゃってる気がするんですけど~?。ヒロだけズルくないですか~?」


だって。それを見た時、僕は自分の中で何かがストンッとハマるのを感じた。以前から何となくそう思ってた気は自分でもしつつ、だけどよりはっきりした気がするんだ。


『千早ちゃん、大希くんが好きっていう以上に、星谷さんのことが好きなんだ』


って。


それが「憧れ」なのか「恋愛感情」なのかはまだ分からない。ただ間違いなく『好き』っていう気持ちは、星谷さんに対してより強く向けられてるんじゃないかな。


これはまた、複雑な関係になってきた気もするなあ。


「お~、修羅場ってきた~!」


玲那が何だか嬉しそうに目をキラキラさせながら言う。でも決して茶化してるわけじゃないのは何故か分かる。玲那もこの三人のことを見守りたいって思ってるんだ。


「そ、そういうわけでは…!」


星谷さんが顔を真っ赤にして玲那を見た。


そして、そんな光景を、沙奈子は穏やかな表情で見てた。どこか微笑んでるような、柔らかい表情だと思った。


沙奈子自身は大希くんのことを異性としては見てないのかもしれない。だけどこの表情ができるっていうのは、この子が三人のことを好きだからなんじゃないかな。異性とか同性とか関係なく、恋愛とか友情とかそういうのも関係なく、沙奈子はみんなのことが好きなんだ。そういう関係の中にこの子がいられることが、僕も嬉しかった。


そうだよね。恋愛だけがこの世の全てでもないし歓びのすべてでもない。その人にとって大切なものが価値のあるものなんだ。


それを実感するかからこそ、また頭によぎってしまう。田上さんもこういう関係性の中にいられるのは、間違いなく彼女にとって救いになってるんだろうなって。解決しない問題の中でも、そういう救いがあれば何とかなるのかもしれないって。


僕もその一端を担ってるかもしれないんだっていうのを、改めて思ったんだ。



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