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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百八十三 文編 「水族館と旅館と」

月曜日。今日は、沙奈子の学校が振替休日になっているから、朝から山仁さんのところで僕の帰りを待ってもらうことになる。その間、玲那にもビデオ通話で沙奈子たちを見守ってもらう。


でも、沙奈子も玲那もむしろ嬉しそうだった。当然か。ビデオ通話越しとは言え、ずっと一緒にいられるんだから。たぶん、アニメ三昧になるんだろうな。


それでもいい。楽しんでもらえるなら。


「いってらっしゃい!」


山仁さんの家で、沙奈子、大希ひろきくん、千早ちはやちゃんの三人に見送られて僕は会社へ向かったのだった。




それからは、特に触れることもないくらいに平穏な一日だった。夕方以降も懸念していた館雀さんの来訪もなく、沙奈子たちは振替休日を満喫してた。宿題は金曜日の内に早々に済ませている。だからずっとアニメを見たりゲームをしたりって形で過ごしてたんだって。


さらに、火曜日から金曜日も同様に平穏だった。館雀さんも来ない。それどころか学校で顔を合わせても向こうが無視してくるようになったらしい。本当に諦めたってことなのかな。


田上さんが言ってた。


「何だろ…。やいやい言ってこなくなったのはいいけど、大人しくしてるのならしてるで気持ち悪い。なんかすっきりしない……」


それは僕も思う。どうして何も言ってこなくなったのかが分からなくて気持ちの収めどころがなくてもやもやする。


でも時間はただただ過ぎて、また土曜日が来た。


今日は、僕たちは絵里奈と玲那に会いに行く。そして田上さんたちは、例の旅館にお風呂に入りに行くことになったらしかった。そのせいか、金曜日には星谷ひかりたにさんの様子が少し浮ついた感じだったのはあったかな。またお風呂でコケたりしなければいいけど。


と祈りつつ、僕は沙奈子を連れてバスに乗ってた。


今日はまた水族館に行くことになった。年間パスを買ったから、活用しなくちゃね。


もう何度目かの水族館だから慣れたものだったけど、何かハロウィンにちなんだイベントが行われてた。ゲームとかスタンプラリーとか。参加は先着順だったから僕たちが行った時にはもう定員が埋まってて、


『ちくしょ~、知ってればもっと早く来たのに~』


って玲那が悔しがってた。沙奈子はそういうのにはあまり積極的じゃないからそんなに気にしてなかったけどね。それでも、ペンギンとハロウィンのモンスターが並んだフォトロケーションというのでしっかりと写真は撮った。すると沙奈子も、僕の方からは何も指示してないのにピースサインを出してポーズを決めてた。なんだかんだ言って楽しんでるんだなっていうのが分かる。


イベントは、10月中はペンギンをメインにしたもので、11月からはチンアナゴをメインにしたものに変わるらしい。その告知を見た沙奈子がすごく興味深そうにしてた。ペンギンももちろん可愛いけど、それ以上にチンアナゴには興味があるみたいだ。ふんすふんすと、少し鼻息が荒くなってる気もする。これは11月にも来た方がいいパターンかな。


おとなしいように見えて、ちゃんと楽しんでくれてるのが分かる。いいなあ、こういうの。


もちろん、絵里奈も玲那も楽しんでくれてる。それが何よりだった。


お昼もいつも通り水族館の中で済ませて、これまでゆっくり見られなかったところを中心に見て回った。でも結局、ちょっと変わった生き物のところでいる時間の方が長かった気もする。


イルカと一緒に記念写真が撮れるっていうので並んだら、先着十名ってことで無理かなと思ってたのにギリギリ十人目で撮れてしまった。これには沙奈子も大喜びで、いつも以上の笑顔で写真に納まってた。他の人から見たらすごく笑ってるっていう風に思えなくても、僕には分かる。ふわっとしたその笑顔は、今のこの子にとっての満面の笑みだっていうのが。


良かったね、沙奈子。


イルカのショーももちろん見て、今回も満喫できたと思う。今度はまた大希ひろきくんや千早ちはやちゃんたちともこれたらいいな。って、きっとまた来ることになると思うけどね。


『じゃあ、また来週ね』


別れ際。玲那のメッセージに頷いた沙奈子に見送られながら、絵里奈と玲那がバスに乗って行った。当然、僕は絵里奈とキスも交わしてる。先週は会えなかったからちょっと長めのキスになったかもしれないかな。だけどそんな僕と絵里奈を見た沙奈子も嬉しそうにしてる気がした。玲那はいつも通りにニヤニヤしてたな。




アパートに帰って夕食の用意をする。いつもの家族の時間だ。なにも特別じゃない、なんてことのない時間。だけどそれがなによりなんだ。


夕食の後で山仁さんの家に行く。すると星谷さんがまた真っ赤になってた。前回ほどじゃないにしても両手で頬を押さえてて、すごく可愛い感じになってた。


「さすがに今日はコケなかったけど、その分、ヒロ坊と一緒にお風呂を堪能したんだよな~」


って波多野さんが、僕と絵里奈がキスを交わした時の玲那と同じような顔でニヤニヤしてた。なんかますます似てきた気がする。そういうのも家族って感じだ。


その一方で、田上さんはすごくホッとした感じに見えた。館雀さんのことで少し心配してたんだけど、リラックスできたみたいだ。


すると田上さんが言った。


「イチコが言ってたことが分かる気がする。あの子はこんな風にホッとすることがないってことなのかな。だからいつもあんな感じでイライラして…。


そっか、これが可哀想ってことか……」


彼女の中で何かが収まったのかな。そう思ってると、さらに言ったんだ。


「私もあの子と一緒だった。イチコと会うまでは……。家のことでいっつもイライラして些細なことで腹を立てて陰口言って……。


そうなんだ。あの子の姿は私の姿だった。だから余計に、私はあの子にムカついてた。きっとあの子の姿が、私のイヤなところを凝縮した感じだったから……。


イチコ、ありがとう。私はあなたのおかげで今の私になれたって思う」


そんな田上さんに、イチコさんも嬉しそうに笑ってた。


「フミがそう思ってくれるのが私も嬉しいよ。私もフミのことが好きだから。家のことで辛くなっても、みんなで一緒にいたら大丈夫になれるんだったらそれでいいんじゃないかな。辛いことってなくならないからさ」


「イチコ……」


波多野さんと星谷さんも言う。


「そうだよ。私たちは家族みたいなもんだよ。私の本当の家族はもうバラバラだけど、ここにもちゃんと家族があるって思ってる。こっちの家族があれば私は大丈夫だって思えるよ」


「そうですね、フミ。私にとってもあなたは家族のようなものです。もう、ただの友達ではありません。私たちと一緒に乗り越えてきましょう」


その四人の姿に、僕も見惚れてた。本当の家族以上に家族って気がしてたから。


四人を見て嬉しそうに微笑んでた山仁さんも、きっと、そういう風に感じてたんじゃないかな。



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