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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百七十六 一弧編 「運動会」

土曜日。すっきりいい天気とはいかないけれど辛うじて天気はもちそうで、今日は沙奈子の学校の運動会だ。お弁当も自分で作った沙奈子がしっかりと用意を済ませて時間を待つ。


今年は絵里奈も玲那も来られない代わりに、波多野さんと田上たのうえさんも来てくれるそうだった。絵里奈と玲那も、沙奈子の出番の時はビデオ通話で見守ることになる。


写真については星谷さんがカメラマンを増員して対応してくれることになってるから何も心配してない。


「じゃ、気を付けていってらっしゃい。後でお父さんも行くからね」


「うん」


いつものように集団登校で学校に向かう沙奈子を見送り、絵里奈と玲那と僕の三人になった。


「私たちも応援します」


そう言う絵里奈に対して、玲那は少し申し訳なさそうな顔をしてた。


『考えてみれば、沙奈子ちゃんの小学校での運動会にはもう行けないのか』


そのメッセージに玲那の本音が込められてる気がした。


「来年は、状況を確かめての上だけど、来てもいいんじゃないかな」


僕の言葉に、彼女は首を横に振る。


『ううん。いいの。これは私のケジメだから。もし何かあったりしたらそれこそ自分を許せなくなるよ。


それにさ、仕事の都合とかで行けないっていうことも普通にあることじゃん』


明らかに強がってるのは見えてるんだけど、でも玲那の考えは尊重したいと思う。それにビデオ通話で話だってできるからね。そういう意味では便利な世の中になったと思うよ。パケットを使い切って通信制限かかったら困るから控えなきゃだけど。


そうこうしてる間にも時間が来て、僕も沙奈子の学校へと向かう。


ちょうど入場行進が始まるところで、今年は割とすぐに彼女を見付けることができた。彼女も僕に気付いてくれて、お互いに手を振る。


『がんばって』


変に声を掛けたら迷惑かと思って声には出さずにそう口を動かすと、それが伝わったのか沙奈子も大きく頷いてくれた。


「山下さん、おはようございます」


不意に声を掛けられて振り返ると、星谷ひかりたにさんがそこにいた。それと当然のように、イチコさん、波多野さん、田上さんも「おはようございます」って挨拶してくれてた。


「おはようございます」


僕も挨拶を返して、五人で入場を見守った。山仁さんは後で来るらしい


引き締まった顔で入場行進をする沙奈子の姿が見えた。千早ちはやちゃんと大希ひろきくんの姿も見える。スマホのビデオ通話で、絵里奈と玲那にも伝える。


開会式も終わり、応援合戦が始まる。沙奈子は今年も白組だった。去年は紅組が先にやったからか今年は白組が先にするらしい。


僕はそのままスマホを構えて見守る。スマホの画面の中で絵里奈と玲那もじっと見守ってくれてるのが分かる。


応援が始まると、今年のそれも去年のと負けないくらいにしっかりと踊る応援だった。いつもは大人しくて大きく体を動かすことのない沙奈子も、この時ばかりは一生懸命体を大きく使って踊ってた。その姿を見てるだけでもう胸が熱くなるのを感じる。


去年は、僕たちはまだ他人だった。家族のように振る舞ってはいても、やっぱり他人だった。それが今年は、名実ともに家族としてこうして運動会に参加してるんだ。それが実感できてしまって……。


「やーっ!!」


去年と同じように大きな声を上げて子供たちがポーズを決めて白組の応援は終わった。続いて紅組の応援が始まり、沙奈子はその場に座ってそれを見てた。はあはあと肩で息をしてるのが分かる。しっかりと気持ちを込めてやってたのを感じた。


そうだ。大人しくても、『ロボちゃん』ってクラスの子から呼ばれてても、あの子にはそういう部分もちゃんとあるんだ。僕たちはちゃんとそれを分かっていてあげたい。


紅組の応援も終わり、子供たちがそれぞれの席に移動したのを見計らって、僕も沙奈子のところへと向かう。千早ちゃんと大希くんも同じクラスだから、星谷さんたちも当然一緒だ。


「沙奈子」


姿が見えたから声を掛けると、彼女が嬉しそうに振り返った。相変わらず他の人には分かりにくい表情かもしれなくても、僕には彼女が嬉しそうにしてることが分かる。


それと、出席番号順に並んでるからか、大希くんは沙奈子の隣の席だった。そこに、千早ちゃんもやってくる。


「ふっふっふ、今日はがんばるぞ~!。ね、ヒロ、沙奈!」


気合の入った千早ちゃんに、沙奈子と大希くんも大きく頷いた。僕から見たら応援合戦でもう十分に頑張ってたように見えても、この子たちにとってはまだこれからが本番なんだ。


「怪我には気を付けてくださいね」


星谷さんがそう声を掛けて、


「がんばれ」とイチコさん。


「がんば!」と波多野さん。


「怪我しないようにね」と田上さんが続く。


「がんばってね」


『がんばえ~』


ビデオ通話で絵里奈と玲那も。


すると、さっそく競技があるということで、沙奈子たちは移動していった。


「いよいよですね」


『うお~、みなぎってきた~!』


スマホ越しだけど、僕と絵里奈と玲那の三人で見守る。


でも、競技が始まるまではまだ少しあるから、パケットを節約する為にビデオ通話はいったん終了した。メッセージアプリの方に切り替えて、僕が実況する形にする。


沙奈子たちの最初の競技は、百メートル走だ。トラックを半周することになる。さすがに勝てるとは思わないけど、あの子なりに全力で走ってくれたら十分だと思う。


一年生、二年生による五十メートル走が終わって、いよいよ五年生による百メートル走が始まる。僕はビデオ通話を再開して、ゴール付近へと移動した。


出席番号順に走るのか、千早ちゃんが一組目でさっそく並んでた。


パーン!という合図と共に、千早ちゃんがぐんっと弾けるように前に出た。早い。男子も一緒なのに、ぜんぜん負けてなかった。コーナーもしっかりと安定した感じで走り抜け、そのまま一位でゴールイン。


「やった!、やった!!」


思わず出たらしい声が僕のいるところにまで聞こえてきた。ものすごく嬉しそうに小さく飛び跳ねながらガッツポーズをする千早ちゃんの姿に、また胸が熱くなる。僕にとってはもう、単なる娘の友達っていうだけじゃないからかな。千早ちゃんがこれまでどんな境遇で生きてきて、どんな想いでここにいるのかを知ってしまったからかもしれない。


僕の近くで見守ってた星谷さんに向かって満面の笑顔でVサインをするその姿が眩しいくらいだった。


その後も続々と子供たちが走り、いよいよ沙奈子の番が来た。同じ組に大希くんもいた。ちらっと見ると星谷さんが顔を赤くして熱いまなざしを送ってる。しかも、彼女が雇ったカメラマン二人がすごい望遠レンズを構えて、千早ちゃんの時以上にバシャバシャとシャッターを切ってた。二人分撮るから当然か。


パーン!。


合図を受けて沙奈子と大希くんたちが走り出す。見る間に他の子に引き離される沙奈子の前を、大希くんが走ってたのだった。



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