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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百七十一 一弧編 「不幸を作る」

月曜日。僕たち家族の方は特に何もなかったんだけど、仕事が終わって沙奈子を迎えに行った時、みんなの様子がちょっとおかしかった気がした。特に田上たのうえさんの機嫌が悪いような……。


と思ったら、田上さんが。


「ホント、何なのあの子!?。意味不明なんですけど!?」


急にそんな風に声を上げた。それを、「まあまあ」と波多野さんがなだめてる。今までのことを思うとちょっと不思議な光景にも見えた。少し前までは波多野さんが感情的になってたのを田上さんがなだめる感じだったはずなのに。


「なにか、あったんですか?」


僕が尋ねると、星谷ひかりたにさんが答えてくれた。


「実は、学校の方でちょっとトラブルがありまして。それ自体はあまり大きなトラブルではないんですが、その時の相手の方の言動がやや突飛に過ぎまして、それでフミが怒ってしまったんです」


だって。するとイチコさんも話し出す。


「私の靴箱に間違えてラブレターを入れちゃった子がいて、それを私たちが読んじゃったんだ。で、ラブレターを入れた子がそれでショックを受けちゃったみたいでさ」


っていつもの感じで飄々と。なのに田上さんはさらにエキサイトして。


「あれって、ショックとか何とかいう感じ!?。明らかに頭おかしいレベルだと思うんですけど!?」


普段はここまで他人を悪く言ったりしない子だったから、僕も少し驚いてしまった。よっぽどのことがあったんだろうな。


イチコさんが応える。


「フミも落ち着いて。私はもう別に怒ってないから。


確かに気分悪い言い方だったけど、ラブレター見られちゃって照れ隠しってのもあったのかもしれないしさ。


とにかく言われたのは主に私なんだし、フミがそこまで怒ることないって」


でも田上さんは納得できないみたいだった。


「イチコは優しすぎだって。あの言い方はおかしすぎだよ!」


そんな田上さんにイチコさんはさらに言う。


「フミ、私のために怒ってくれるのは感謝してる。でも、それでフミが館雀かんざくさんとケンカになって余計に嫌な思いするのは私としては嬉しくないな」


「それは…、そうかもしれないけど……」


「ありがと、フミ。私ならホントに大丈夫だから。あそこまで行ったらギャグだから。楽しませてもらってたよ」


「イチコ……」


具体的にどれほどのことがあったのかは僕には分からない。ただ、普段はあまりしゃべらないイチコさんがこれだけしゃべるという時点で実際には気持ちを揺り動かされてたんだろうなとは思ってしまった。




今回の件は、イチコさんの身に降りかかったことだからか、山仁やまひとさんは特に何も言わずに見守ってるだけだった。本人たちで解決しようとしてることについてはなるべく口出ししないというのが山仁さんの基本的なスタンスだというのが改めて分かる。もちろんそれでも解決できないようであればその時は力になるけど、正直、星谷さんがいると、大人としての出番はそれほどないっていうのも感じたりする。


なんて言うか、あくまで精神的な支えって立場なのかな。感情を処理しきれなくなった時に受け止めてくれる存在ってことかもしれない。


それにしても、話を聞いてるとその館雀さんっていう子、ここまで今の田上さんの神経を逆撫でするって、どれだけだったんだろう。決して自分から人を傷付けに行こうとはしない人をわざわざ怒らせて、その子は何がしたいんだろう。


そんな風に感情的にならなきゃいけない理由は当然あるにしても、本来は決して敵とかじゃなかった人をこうやって怒らせて敵に回して、何がしたいんだろう。敵どころか、ちゃんと手順を踏んでお願いすれば力にだってなってくれる人のはずなのに、わざわざそれを台無しにするなんて、自分で苦しい状況を作り出してるだけなのに。


それに比べて、イチコさんは突っかかってくる相手に同じように食って掛かるんじゃなくて受け流すようにしてるんだっていうのもよく分かった。そうすることで敢えて火種を大きくしないっていうのが身についてるんだ。ただそれも、先に田上さんが感情的になってしまったことで冷静になれたっていう一面もあるかもしれないけど。


いずれにせよ、僕は、自分で不幸を呼び寄せるタイプの人っていうのがどういう人かっていうのを感じたりもした。


しかもこの後、それを目の前で見ることになるんだけどさ。




会合が終わって沙奈子を連れてアパートに帰ると、玲那がさっそくメッセージを送ってきた。


『なんか、キャラの濃いのが絡んできた感じだね』


「そうだね」と、沙奈子が夕食を作ってるのを手伝いながら僕は応えた。


「どういう子かは分かりませんけど、問題が大きくならないように解決できたらいいですね」


絵里奈も心配そうに言った。すると玲那が、


『絵里奈、それフラグだから。余計なこと言わない方がいいから』


だって。まあフラグとか何とかいうのは僕には分からないにしても、絵里奈の言うことは僕も同じ気持ちだった。トラブルは小さなうちに解決するのが不幸を大きくしないコツだっていうのはこれまでで学んだことって気がする。沙奈子の学校が、千早ちゃんの件を単なる子供同士のケンカみたいな認識で放っておかずに対処してくれたのもそういうことのはずなんだ。問題を放置して大きくなって取り返しのつかないことになってから『誰の責任だ!?』って騒いでも遅いんだ。


イチコさんたちが通ってる学校も公立だから基本的にはそういうスタンスらしい。もっとも、さすがに高校だから小学校よりはなるべく生徒に任せようという感じはあるらしいけどね。その代わり、刑事事件とかになりそうな場合はすぐに対処するとも言ってたな。何年か前、学校の敷地内でボヤ騒ぎがあった時もうやむやにするんじゃなくてすぐに警察に入ってもらって徹底的に捜査してもらって、学校の外から投げ込まれた火のついた煙草のせいらしいってことが分かって付近の監視カメラまで調べてその画像を公開して容疑者を追ってるって状態らしい。


残念ながら容疑者そのものはまだ捕まってないそうだけど、画像まで公開されてその容疑者は、今、どんな気分なんだろうな。煙草をポイ捨てするとか、本人としてはそれこそ何も悪気無くしたつもりのことがこんな騒ぎになって、反省してくれてるんだろうか。それでもう二度とポイ捨てしないでいてくれるなら逮捕されるまではいかなくても実質的には問題が大きくならずに済むのかもしれないけどさ。


館雀っていう子も、煙草をポイ捨てしてボヤを出した容疑者も、自分から不幸を招こうとしてるってすごく思う。そんなことをするのが自分にとって損だっていうのが分かればいいのになって思ってしまう。僕たちが今、小さくても確実に幸せを掴むことができてるのは、結局、自分から不幸を作らないように心掛けてるからだと思うんだ。



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