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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百六十八 一弧編 「生きててくれてありがとう」

水曜日から金曜日は、いつものように淡々と過ぎた。僕はそれが嬉しくて、とても気分が良かった。


そうそう、そう言えば今度の月曜日は絵里奈と玲那の誕生日だ。というわけで、明日はちょっと早いけど、家族だけで二人の誕生日をお祝いすることになってる。ファミレスの誕生日サービスを利用してね。


波多野さんから『カラオケボックスでやる?』って提案を受けたけど、さすがにかなり続いたから今回は僕たち家族だけでっていうことにしてもらった。はしゃぐのもいいけど、あのノリは絵里奈がついて行けないからね。玲那も今は歌えないから、カラオケで主役というのはちょっと。


それと、今年は敢えてプレゼントというのは控えることにした。玲那が『要らない』って言ったからだ。


『あんなに迷惑かけておいて、プレゼントなんてもらえないよ。


執行猶予が明けるまで、プレゼントは要らない』


ということだった。


そこで無理にプレゼントを渡そうとするのも何か違うっていう気がしたから、今回はお祝いだけということで。すると絵里奈も、


『玲那がもらわないのなら私も要りません』


だって。


来年はまたその時に考えるとしても、玲那の口ぶりだと、執行猶予が明けるまでは受け取らないかもしれないな。それは、玲那なりのけじめなのかも。だとしたら僕はそれを尊重したいと思う。


必要のないことかもしれない。意味の無いことかもしれない。ただの自己満足に過ぎないのかもしれない。だとしても、それをあの子が望むなら、それであの子の気が済むのなら、それでいい。


絵里奈についてもね。


絵里奈にとって玲那は、ただの友達じゃないっていうのは僕にも分かる。今は娘ってことになってるけど、元々家族同然だったんだ。恋人みたいなものだったってことも知ってる。それが例え、お互いの傷を舐め合うための関係だったとしても、二人にとっては必要なことだったっていうのは僕も理解したいんだ。そういうことも含めて、僕は二人を受け入れたい。


そういうのを気持ち悪いとか許せないとか言う人もいると思う。でもこれは僕たち家族の問題なんだ。他人に口出しはさせない。お互いに支え合って生きてきた二人だからこそ僕は好きになったんだって感じてる。それは誰のものでもない、僕自身の気持ち。


誰憚ることなくはっきり言える。僕は、絵里奈を愛してる。彼女みたいな女性を世間では『メンヘラ』とか言ったりするんだとしても、そんなの僕には関係ない。彼女はとても優しい女性なんだ。優しすぎていろいろと抱え込みすぎるだけなんだ。


ただこの後、その、世間で『メンヘラ』って呼ばれそうな女の子が起こした騒動に、僕たちも少しだけ巻き込まれたりしたけどね。あくまでほとんど傍観者としてだけど。




土曜日。今日は絵里奈と玲那の誕生日を祝うために会いに行く。沙奈子の午前の勉強まで済まして、それから家を出る予定だった。と、その時、僕のスマホに着信があった。星谷ひかりたにさんからだった。


「お休みのところすいません。まだ御在宅でしょうか?」


思わぬ質問に僕は戸惑いながらも、「はい、今はまだ家にいます」と応えてた。するとさらに思わぬことが。


「実は、千早ちはやが玲那さんと絵里奈さんのためにケーキを作ったんです。それで今からお届けに上がろうかと思うんですが、よろしいでしょうか?」


…え?。


一瞬、意味が掴めなくて呆然としてしまったけど、すぐに絵里奈と玲那に向かって、


「千早ちゃんがケーキを作ってくれたんだって。それで今から持ってきてくれるって」


と説明した。その途端に、


『え、千早ちゃんのケーキ。食べたい食べたい』


って、満面の笑顔の玲那からのメッセージが。絵里奈も、


「私も食べたいです」


だって。


というわけで、星谷さんと千早ちゃんと大希ひろきくんが、ケーキを届けに来てくれた。


「絵里奈さん、玲那さん、お誕生日おめでとうございます」


星谷さんが、ビデオ通話の画面に向かって頭を下げる。


「ありがとうございます」


絵里奈と玲那も少し恐縮した感じで頭を下げてた。そこにさらに千早ちゃんがケーキの入った箱を掲げながら言った。


「玲那お姉ちゃん、絵里奈さん、これ、私が作ったケーキ。上手にできてたらいいんだけど」


本当に、すごくいい子だと思った。ずっと辛い目にも遭ってきたはずなのに、沙奈子にきつく当たったりした時期もあったはずなのに、今はこんなに思いやりに溢れた子になってくれてる。それは、星谷さんをはじめとしたあのみんなに囲まれてるからだと思う。人との出会いによって人は変われるんだっていうのをしみじみと実感する。


「ありがとう、千早ちゃん。本当に嬉しい」


絵里奈が久しぶりに涙目になってた。玲那の目も潤んでるように見える。


大希くんにも「おめでとう」と言ってもらって、ケーキを受け取って、三人が帰る時に、僕と沙奈子も家を出た。バス停近くで別れて二人で手を振ってると、ちょうどそこにバスがやってきた。それに乗って目的地へと向かう。


いつもの人形ギャラリーの近くのファミレスで待ち合わせだった。


ケーキを傾けないように注意しながら向かうと、目的のファミレスが見えた。今日は僕たちが先に着いたみたいだな。と思ってるところに絵里奈と玲那も来た。


さっそく中に入ると、予約してあった席に案内された。


「ちょっと早いけど、おめでとう」


「おめでとう、お母さん、お姉ちゃん」


僕と沙奈子のその言葉に、絵里奈と玲那は「ありがとう」って深々を頭を下げた。


いいな。この感じ、すごくいい。


胸がきゅっと締め付けられるようなくらいに僕は嬉しかった。家族の光景だと改めて思ったんだ。




食事が済んだ後に、小さなケーキが運ばれてきた。二人のためのケーキだけど、四人で分けて食べた。ファミレスのそれは、やっぱり万人向けの味付けだからか僕たちには少し甘すぎて、分けたくらいでちょうどよかった。


ゆっくりした後は、せっかくだからっていうことでまた人形ギャラリーの方へと寄った。そうなると当然、沙奈子と絵里奈は人形の方へ、僕と玲那は喫茶スペースの方へって分かれる。


『う~、これで私もまた一つ歳を取ったのか~。実際には明後日だけど、何だかショック~』


二人きりになった途端、玲那がそうメッセージを送ってきた。沙奈子の前では言わなかったけど、その気持ち、僕にも分かる気がする。大人になると余計に嬉しいもんじゃなくなるよね。誕生日って。


ただ、嬉しいかどうかっていうのとは別で、自分が生まれてこれたことに感謝したいって素直に思えるようにはなってきてた。そしてそれは、玲那も同じだった。


『辛かった時もあったけど、生まれてきて良かったって今は思うよ。お父さん』


そのメッセージに、僕もたまらなくなる。


「玲那。生きててくれて本当にありがとう。心からそう思える。ありがとう」



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