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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百六十五 一弧編 「恋愛観」

玲那とゆっくり話ができて、表情とか仕草とかからもこれといって不安も感じなくて、僕はホッとしてた。そこに沙奈子と絵里奈が来て、喫茶スペースでちょっと遅めのお昼にした。それからまた沙奈子と絵里奈は人形を見に行って、やっぱり玲那との時間を過ごすことができた。


「今日はこうして玲那を目の前にしてじっくり話ができて良かった」


『私も、何だかすごく安心した。やっぱりお父さんと一緒にいるのが好き。もちろん絵里奈も沙奈子ちゃんも好きだけどね』


そうメッセージを送ってきて微笑む玲那を、僕は可愛いなと思うんだ。




家に帰って夕食を済まして、沙奈子と一緒に山仁やまひとさんの家に行くと、星谷ひかりたにさんの様子が何だか変だった。


変と言うか、顔が赤くてぼうっとしてて、のぼせた感じ?。


「今日のピカは使い物にならないと思うから私が進めるね」


と切り出したのはイチコさんだった。


「でも、特に話すこととかなさそうかな。『お風呂楽しかった』ってくらいかな」


そんなイチコさんに続いて、波多野さんと田上たのうえさんが明るい顔で話し出す。


「だよね~。すごく良かったと思うよ。地味だけど、お風呂はすごくいい感じだったよね」


「うん。良かった。癒されたよ。また行きたい。


まあでも、今回、一番ハッピーだったのはピカだよね」


という田上さんの言葉を受けてイチコさんが、


「ほんとほんと。鼻血ふくほど楽しめたんなら本望でしょ」


だって。


鼻血ふいたって……。


イチコさんたちの話によると、結局、みんなで一緒にお風呂に入ったんだけど、星谷さんは大希くんと一緒に入ったことで興奮しすぎて大量に鼻血を出してのぼせて、それからずっとこの調子だって言う。


「ま、明日には治ってると思うよ。だから今日はもうゆっくりと余韻に浸ってたらいい」


というイチコさんの締めでこの日の会合は十五分ほどで終わった。


僕たちの中では一番、恋愛らしい恋愛をしてると言ってもいいかもしれない星谷さんのそんな姿に、僕は何だか微笑ましいものも感じてた。


恋愛とかが必須だとは思ってない僕たちでも、星谷さんが大希くんのことをここまで好きだっていう気持ちを否定したり馬鹿にしたりする気はないんだ。彼女にとってはそれが必要なことだと思うから。


ともすれば合理的で事務的で冷淡な印象さえ見る人に与えるかもしれない星谷さんにもこういう可愛らしい一面があるっていうのはすごく人間らしくていいなって思えるのも正直な気持ちなんだよね。


沙奈子を連れてアパートに帰ると、さっそく玲那がメッセージを送ってきた。


『いや~。今日のピカの姿はまさに掘り出し物ですなあ~』


また悪戯っぽい笑顔を浮かべる彼女に、僕は苦笑いしか浮かばなかった。


「でも、あそこまで真っ直ぐに想えるというのはすごいと思いますよ。ますます応援したいと思いました」


絵里奈がふわっと微笑みながら言う。僕もそう思うよ。


『もちろん私もピカのことは応援してるけどさ。


ただ、肝心のヒロ坊の方は、ピカのことを全く意識してないよね。


お父さんが会った時、ヒロ坊の様子はどんなだった?』


不意に振られてハッとなった僕だったけど、言われてみれば実のお姉さんを含めた女子高生の女の子四人と、同級生の女の子一人と一緒にお風呂に入ったにしては、沙奈子を迎えてくれた時の様子もいつも通りで、星谷さんに比べればそんなことがあったのかどうかも分からない感じだったのは確かだな。


「確かに、いつもと何も変わらなかったな。でもそれは、千早ちはやちゃんも同じだった気がする。大希くんと一緒にお風呂に入ったのにぜんぜん意識してる感じがなかったよ」


僕の答えに、玲那は「うんうん」と大きく頷いた。


『やっぱりね~。これは下手にライバルがいるよりも難しいミッションだと思うよ。相手にその気がないっていうのは』


「そうね。いたるさんにモーションかけてた鷲崎さんと同じ状態だもんね」


玲那のメッセージに絵里奈がそう反応した時、僕も腑に落ちてしまった。なるほどそういうことかと思った。大希くんは僕ほど冷淡な対応はしてなくても、星谷さんのことはちゃんと好きでも、それはあくまで『優しい年上の友達』としての好きであって、恋愛対象として見てるっていうのとはまったく違うみたいだからね。


改めて星谷さんの恋は前途多難だなと思わされたのだった。


ちなみに、今回の件について沙奈子の様子はそれこそ終始『我関せず』って感じの涼しい顔だったりもしてたかな。




日曜日。その星谷さんが千早ちゃんと大希くんの付き添いとして来るはずだった。一体、どんな状態になってるのかなと正直心配してたけど、


「今日もお世話になります」


と、この時点ではいつもの様子にすっかり戻ってるみたいだった。イチコさんの言う通りってことか。さすがだな。でも。


「昨日はお恥ずかしいところをお見せしてしまいました」


千早ちゃんたちが今日はハンバーグを作り始めたところで、星谷さんが照れくさそうにそう言って頭を下げた。


「いえいえ。好きな人のことを想って上の空になるのは恥ずかしいことじゃないと思いますよ」


とは言ったものの、昨日のあれはそういうのともちょっと違うのかなと僕も正直思ってたりはする。すると星谷さんもますます顔を赤くして、


「ホントに恥ずかしいです……」


って俯いてしまったりもした。その姿が可愛くて、僕は思わず頬が緩んでしまった。


『おとーさん、顔、顔』


玲那のツッコミにハッとなる。やっぱり悪戯っぽい顔で玲那は僕を見てた。でも、僕が星谷さんを可愛いと思うのも、結局はそこに沙奈子の姿を重ね合わせてるだけなんだけどさ。沙奈子もいつかこんな表情を見せることもあるのかなって感じで。


そんな調子で、完全にはいつもの星谷さんってわけじゃなさそうなまま、お昼を終えて三人は帰っていった。ただ、やっぱり大希くんと千早ちゃんの様子はまったくいつも通りだったな。千早ちゃんが大希くんのことを男性として意識してるわけじゃないっていうのも改めて実感した気もする。


そういう意味では、沙奈子も千早ちゃんも大希くんを恋愛対象として見てないみたいだから星谷さんもライバルはいないのかもしれないけど、玲那の言う通り、だからってハードルは決して低くないってことなのかなあ。


大希くんやイチコさんを振り向かせるには、単に異性として魅力的だとかいうのだけじゃ無理そうだとも思った。あくまで人として噛み合う感じの中でパートナーとしての存在感みたいなのを意識させないといけないのかも。それってただ恋愛するだけより難しそうだな。媚びたり誘惑したりとかが通用しないってことだろうし。


でも沙奈子もどうやらイチコさんや大希くんと同じような感覚を持ってそうだから、そういう意味では参考になりそうだと思ったりするんだよね。



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