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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百六十二 一弧編 「恋愛感情」

火曜日から金曜日までは、また穏やかで何も問題なく過ぎていった。玲那の様子も落ち着いてる。鷲崎さんからも何度かビデオ通話が届いたけど、それも他愛ない世間話で済んだ。でもその度にすっきりした表情になっていってたから、癒されたくて連絡してきたんだろうなっていうのは分かった。そういう形で頼ってもらえてるのが嬉しい。


ところで、今月は沙奈子の運動会がある。第三土曜日だ。


今年は絵里奈と玲那は見に来れないけど、星谷ひかりたにさんがカメラマンを二人に増やして沙奈子の写真も撮ってくれると言ってるし、頭が下がる思いだった。


でもその前に明日は、星谷さん、イチコさん、大希くん、千早ちゃん、波多野さん、田上さんの六人でまたあの旅館に行くらしい。そのせいか、星谷さんの様子がいつもと違ってる気がする。


なるべく冷静を装ってるんだけど、どこか上の空って言うか、会合の間も何となくふわふわした印象だった。


「ピカ。楽しみなのは分かるけど、ぼーっとしすぎてのぼせたりしないようにね」


イチコさんに言われて、「は、はい…。もちろんです!」なんて上ずった感じで応えてたりもした。


家に帰ると、玲那が、


『ピカ、完全に浮かれてたね』


ってメッセージを。


「ししし」って感じで笑ってて、玲那自身は精神的にも安定してるのが分かって僕はむしろそのことに安心してた。星谷さんのことは僕には何とも言えないし。ただ、大希くんと一緒にっていうのが相当楽しみなんだろうなというのは分かる気がする。


高校生の星谷さんが小学生の大希くんにここまで熱をあげてるっていうのは、以前の僕なら内心ではバカにしてたかもしれない。『くだらないことしてる』って思ってしまったかもしれない。そもそも恋愛とかも面倒臭いって思ってたくらいだもんな。そういう感じで見ると、わざわざハードルの高い恋愛をするっていうのがそれこそかつての僕には理解できないことだったと思う。


正直、大希くんに何を見出したのかは僕には分からない。大希くん自身はすごくいい子だし魅力的なんだろうなとは思うけど、高校生の星谷さんから見て真剣に恋愛をする相手になるっていうのがピンとこないっていうのはある。でも、自分がピンとこないからって、誰かに迷惑をかけてるわけでもないその気持ちを馬鹿にしたりっていうのは違うのかなとも思うんだ。


しかも、大希くんを想う星谷さんの気持ちが千早ちゃんを救って、沙奈子のことも救ってくれたんだ。感謝こそすれ否定する理由は僕にはない。


だけど、この件については、沙奈子は特に興味もなさそうだった。この年頃の女の子なら恋愛とかについて興味を持ち始めてもいいような気もするのに、まったくその気配もない。でも沙奈子以上に意外だったのが、千早ちゃんもすごく普通にしてるってことだった。沙奈子を迎えに行った時にいつも三人で出向けてくれるその様子にもぜんぜん変化がなくて、普通にしてる。確か、千早ちゃんがきつく当たってたのは、大希くんと沙奈子が仲良くしてるのにヤキモチを妬いたからってことだったはずだったのにな。


実はその辺りの気持ちは、実際には恋愛感情じゃなかったっていうのがオチだったっていうのが後々はっきりと判明するものの、この時点では僕も不思議に思ってた。とは言え、僕も絵里奈に対して抱いてる気持ちが恋愛感情なのかどうなのかっていうのもいまだによく分かってないし、意外と本人でも分からないものなのかなっていう気もする。


人が人を好きになるっていうのにもいろんな形があるんだなあ。


この辺り、沙奈子の場合は特に芽生えが遅かったんだよね。だから余計に、後々『クールビューティー』とか『氷姫こおりひめ』とか呼ばれる原因になったんだろうけどさ。男子どころか女子にさえ近寄り難いって印象を与えるくらいだったらしいし。


もっとも、本人にしてみれば別に拒絶してるつもりはなくて、単に合理的な対応をしようとしてたら周りが勝手にそういうイメージを作っていっただけだったっていうのもあったらしい。


それについてはまたいずれ話すことになると思うから今は置いといて、よくよく考えてみたらこの時点でははっきりした恋愛感情っていうので行動してたのは、星谷さん一人だけだったんだなって思う。僕と絵里奈は夫婦だから別にして。


だからほのぼのしてたっていうのもあったのかもしれない。恋愛感情が強く絡んでくるともうちょっとこういろいろあった可能性もあるのかな。


山仁さんは完全に女の子たちのことを自分の娘のようにしか見てないし、イチコさんは恋愛にはまるで興味ないそうだし、波多野さんと田上たのうえさんはそれどころじゃないし、千早ちゃんの大希くんへの気持ちも厳密には恋愛じゃなかったし、僕と沙奈子はこれだし、絵里奈は僕のことしか見てないし、玲那も僕のことはもう父親としか見てないし。


でも、『家族』とか『親戚』だったらこんなものか。鷲崎さんは僕のことを今でも好きらしいけど、今のところはまだそんなに深く関わってきてないから影響も大きくない。何より絵里奈が圧倒的な『正妻の余裕』でもって受け流してる上に僕自身も鷲崎さんのことをそういう対象として見てないからなあ。


恋愛っていうのも人生においては大切なものなのかもしれない。ただ、僕たちが求めてるものと恋愛感情っていうのとは必ずしも一致しないみたいなんだよね。どうしても感情の起伏が激しくなるイベントみたいなものだから。


星谷さんは今、その僕たちの中では少々特異な立ち位置にいるのかもしれないな。だからって否定する気もないよ。すごく真剣に想ってるのが分かるし、この集まりを壊したりとか波風立てるつもりはまったくないのも分かるし。彼女にとってもこれは必要なものっていう実感もある。それに星谷さんは、大希くんのために、大希くんの家族も友達も友達の家族も守りたいって思ってくれてるから。


けれどそれは、突き詰めれば『大希くんのことを好きな自分のため』でもあるんだと思う。最終的には自分のためだからあそこまでできるんだと思う。僕もそうかな。沙奈子のことを大切にしたいのも、絵里奈のことを大切にしたいのも、玲那のことを大切にしたいのも、みんなのことを大切にしたいのも、それが結局は僕自身のためになるからっていうのを感じてるからだし。


『自分以外の誰かのため』に自分のすべてを投げ出すみたいなことは、正直、誰にでもできることじゃないとも感じてる。でも自分のためだと思えれば、自分のために誰かを支え力になるんだと思えれば、けっこう誰にでもできてしまうことかもって気もするんだ。なにしろこの僕ができてるんだもんな。


身勝手なのは誰でもそうだと思うんだ。大切なのは、どうするのが一番自分のためになるのかっていう部分でどう考えるかなんだろうな。



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